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ドラマ「陸王」に学ぶリーダーシップ

金子浩明 テクノロジーマネジメント、オペレーションズマネジメント、日本的経営

18/06/15

今日は、イノベーションを生み出すために必要なリーダーの役割についてお話します。題材はドラマ「陸王」です。池井戸潤さん原作で昨年の10月に放送されて視聴率20%を超えるヒットになった作品です。今回、俳優の役所広司さんが演じた宮沢さんという社長のリーダーシップを、「イノベーションを生む」という観点から見ていきたいと思います。

このドラマは、役所広司さん演じる100年の歴史を持つ「こはぜ屋」という足袋屋の4代目の社長が、スポーツシューズの開発に乗り出すというお話でした。皆さんご存知のように、現在足袋を履いている人は」ほとんどいません。足袋屋は衰退の一途で、廃業に追い込まれるのは時間の問題でした。そこで、会社を存続させる為に新規事業を模索したわけです。その新規事業で作ったランニングシューズが「陸王」です。しかし、なかなかうまくいきません。足袋からスポーツシューズというのは、履き物としては同じですが、技術が大きく異なります。こはぜ屋には足袋で培った縫製の技術はあるものの、シューズを作る技術がないわけです。その上、足袋は売れないわけですから、当然お金もありません。非常に苦戦するわけです。ただ、ドラマの中では理想のソール素材「アッパー素材」を発見します。その素材があれば、あとは優れた足袋の縫製技術を使ってシューズが作れるわけです。ただ、そこには問題が山積していました。ソール素材の開発者は、様々な企業から引き合いがあり、使いたいのなら他企業と同じように5,000万円払えと言ってくるわけです。ビジネスですから当然のことです。更に、完成した試作品は、非常に高性能で大手の外資系シューズメーカーから敵視されるようになります。そのライバル企業は、ピエール瀧さんが演じるアメリカでMBAを取得したエリート営業責任者小原部長の率いる外資系の企業でした。勝ち目はないと思いますよね。銀行もリスクが大きすぎるからとお金を貸してくれず、むしろ貸さない方が銀行員の親切だと言われてしまいます。しかし、この社長は諦めません。ではどうするのかというと、とにかく熱意で周囲を巻き込んでいくわけです。何度も何度も足繁く通い、「うちに協力してくれないか」、「一緒にやりませんか」ということで、周囲に働きかけていきます。その結果、ソールの開発者も、そしてアッパー素材のメーカーも、その熱意に動かされて「こはぜ屋」に協力するようになります。

ただ、自社が衰退する中で自社を立て直したいという思いだけではみんな協力してくれません。重要なのは、彼の思いが単に自分がお金を稼ぎたいとか良い物を作りたいということではなく、怪我で苦しむランナーを救いたいというものだったことです。足袋というのは、非常にフィット感が高くソールが薄いため、膝に負担のかからない走り方を身に付けることが出来ると訴えたわけです。そこで、このドラマの準主役的存在の実業団の茂木選手が登場します。この茂木選手は今をときめく竹内涼真君が演じています。茂木選手は、実力はあるけれども怪我で力が発揮できずに、先程の大手の外資のシューズメーカーからスポンサー契約を打ち切られてしまいます。これは一大事です。ただ、企業にとって広告というのは商品を売るための手段ですから、当然リターンのない投資は出来ません。このアトランティス社という外資のシューズメーカーも確かに冷たいですけども、ビジネスとしては走れなければしょうがありません。ただ、これが逆に「こはぜ屋」にとっては転機となります。怪我をしている茂木選手に実際にレースでこの足袋のランニングシューズ「陸王」を履いてもらうことになります。そして、彼がレースで実際に良い成績を出すのです。そこで終わればハッピーエンドなのですが、ドラマもそううまくはいきません。これをきっかけに益々アトランティス社が「こはぜ屋」をライバル視していきます。そこで、アトランティス社は、アッパー素材やソール素材を「こはぜ屋」に使わせないようにしました。ただし、それだけではただの邪魔なので、アトランティス社は、この素材を「こはぜ屋」ではなく、自分たちのアトランティス社に提供するように仕向けました。こうすることで競合他社に一番合理的で大きな痛手を与えることになります。せっかく良いところまでいっていた「こはぜ屋」さんにとっては非常にかわいそうですが、供給しているアッパー素材のメーカーとしても、大量に安定的に購入してくれる大企業の方が零細企業の「こはぜ屋」と組むよりも良いというのは、ビジネス的には真っ当な判断です。こうやっているといつまで経ってもなかなか成功しないわけです。ただ、ドラマなので詳細はここでは話しませんけれども、結果的にはハッピーエンドになります。

今日この話の中でお伝えしたかったことは、イノベーションを得るためにはリーダーの思いや熱意が必要だということです。このアトランティス社のリーダーの部長さんは、アメリカのMBAを卒業したエリートですが、彼は損得勘定でしか動いていません。選手は商品のための広告塔で、競合が出てくれば早めにその芽を摘んで利益を生み出すという目的に対して非常に合理的に行動します。一方、「こはぜ屋」の宮沢社長は、損得勘定には疎い方です。そのため、常にお金の苦労をしています。しかし、思いだけは人一倍強く、自分の会社を何とかしたいというよりは、怪我のランナーを救いたいという価値に対して合理的に向き合っています。

みなさんはどちらの上司と働きたいですか?やはり思いがないといけないと思いますが、現実問題どちらも大事です。この宮沢さんという人は思いだけで突っ走って相当会社を傾かせるわけです。ドラマだから成功したわけですが、現実は両方が必要ということです。ただし、イノベーションを得るためには、損得計算だけでは無理です。なぜならば、困難なチャレンジに対して協力者をえるには、損得計算を超えた何かが絶対に必要だからです。それをこのドラマは教えてくれます。

では、今日のまとめです。
ビジネスにおいて、損得の計算は必須です。しかしそれだけではイノベーションを生み出せません。損得を超えてみんなが熱くなるような価値を掲げて、それに心身を捧げられるリーダーでないと周囲はついてきません。

分野: 技術経営 経営戦略 |スピーカー: 金子浩明

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