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SCM(5):サプライチェーン・ネットワークの対策

目代武史 企業戦略、生産管理

18/04/24

 今回はサプライチェーンの災害対策について考えていきたいと思います。サプライチェーンは、工場や倉庫のような個々の拠点と、それが取引ネットワークで繋がったネットワークになっています。したがって、災害対策についても拠点レベルとネットワークレベルで考えることが出来ます。今回はサプライチェーンのネットワークレベルで災害対策を考えていきます。

 ネットワークレベルの災害対策を考える上でもっとも重要となるのは、サプライチェーンのどこで何が起こっているか把握することです。すなわち、サプライチェーンの可視性の確保です。例えば、2011年の東日本大震災でトヨタは、非常に大きな被害を受けました。その際、サプライヤーを支援しようにも、どのサプライヤーがどこでどう被災しているかがなかなかわかりませんでした。その反省を踏まえ、トヨタは「RESCUE」(Reinforce Supply Chain Under Emergency)と呼ばれるサプライチェーン情報システムを構築しました。これは日本国内で生産される部品と資材について全ての一次仕入先(約約400社)に、二次以下の調達先の調査を依頼したものです。約4,000品目、30万拠点の情報がデータベース化されました。さらに、このデータベースと、内閣府中央防災会議が発表しているハザードマップを組み合わせることで調達品目別や拠点別にリスク管理ができるようになりました。
 サプライチェーンの可視性の次に課題となるのが、サプライチェーンの頑健性です。頑健性とは、何かショックが与えられたときにそれに対して影響を受けにくい程度のことをいいます。例えば、ある部品を特定の部品メーカー1社から購買していたとすると、もし何かあった場合に、その部品が調達できなくなる可能性が非常に高くなります。調達先の分散化は、頑健性を高める一つの方法です。
 一方で、調達先の分散化は、新たな問題を引き起こします。例えば、今まである部品メーカーに100発注していたものを、ある部品メーカーに50、別の部品メーカーに50ずつ分散発注すると、規模の経済が働かなくなり、コストアップにつながります。物流費も単純に倍になります。安全をとるか効率性をとるかという問題が出てくるわけです。

 もう一つの問題は、もし被災してしまったらどうするかということです。それが復旧力です。復旧力には、調達先の代替可能性と生産情報の可搬性がかかってきます。もしある取引先が不幸にも被災してしまったときに、その取引先を迂回して代わりの取引先を確保出来れば、速やかにサプライチェーンを復旧できるわけです。
 もう一つは、製品の生産情報の可搬性です。例えば、ある企業が球種と北海道に工場を持っていたとします。九州の工場が被災した時に、九州の工場から北海道の工場に速やかに生産設備や生産ノウハウを持ち出せることができれば、それは可搬性が高いということになります。一般的には、組立ラインは比較的可搬性が高いと言われています。半導体を作る工場のように、非常に精密な機械が何十台と並べられるような生産ラインは可搬性が低いと考えられています。このように、ある工場が被災してから事後的に生産ラインを別の工場に搬出しようとしても非常に時間が掛かってしまうし、元の品質を実現するのも非常に時間が掛かってしまいます。一番良いのは、あらかじめコピー工場やコピーラインを設けておくことですが、これもやはり生産の分散化を招くので、コストアップという問題を招いてしまいます。

 そこで、東京大学の藤本隆宏教授が提唱しているのが、サプライチェーンの「バーチャル・デュアル化」です。バーチャルは「仮想の」、デュアルとは「複線の/二重の」と言う意味です。先程申し上げたように、現実に物理的に調達先や生産工場を分散化すると、投資が二重になり、生産量が半分になるということで効率が下がります。そこで、いざというときに迅速にバックアップラインを立ち上げられるようなラインを別の工場に用意しておきます。しかし、平時においては、生産は元の工場で集中して行います。そして、いざという時に生産をバックアップラインに移せるように、生産情報やノウハウの移転訓練を常々行っておきます。そうすることで、平時においては集中生産の効率性を確保するとともに、いざという時には速やかに代替生産先に生産を移管して、サプライチェーンの機能回復を迅速に行うというアイデアです。

 今日のまとめです。サプライチェーンのネットワークレベルの災害対策では、サプライチェーン全体を見渡すような一つ一段高い視点が求められます。サプライチェーンの可視化は、災害対策の前提条件になります。調達先の分散化はサプライチェーンが途絶えてしまうリスクを回避する重要な方法である一方、平時における効率低下を招く恐れもあります。そこでサプライチェーンのバーチャル・デュアル化によって、平時においては物理的には分散化させず、いざというときには迅速に調達分散化と同じ効果が得られるように仮想の複線的調達先を確保していくことが有効と考えられています。

分野: 生産管理 |スピーカー: 目代武史

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