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日本の不安、アメリカの不安:その違い

久原正治 経営学 (経営戦略、経営組織、日米比較経営、金融機関経営)

18/04/06

小泉改革以降日本では経済がなかなか回復しない中で、少子高齢化が進み政府の財政もだんだん厳しくなり、みんなが不安に囚われています。他方で、アメリカでも格差が拡大し、多くの人が不安に思っている中で、トランプ政権の下で差別によって国の分断化が進んでいます。日本もアメリカも今大きな不安を抱えているのですが、その不安には違いがあるという話をしたいと思います。

まず日本の不安を考えてみますと、不安のもとになっているのは少子高齢化、格差の拡大、非正規社員の増加等です。その為、高齢者や中年にとっては老後の不安があり、若い人達には雇用や子育ての不安があります。欧米諸国であれば、これからどうやって生きていくのかという経済問題に関する様々な不安に対して、共同体が支えになったり政府の社会保障がきちっと対応していたりします。

こういった支えるものがしっかりしていれば不安も解消できるわけですけれども、日本ではまず地域の共同体がどんどん変化しているのです。昔は大企業や中堅企業では終身雇用によって会社が色々な面倒を見ていたのですが、今は会社が面倒を見てくれるのは少数の正社員だけです。他方で核家族化しており地域の共同体の支えができなくなっています。では誰が支えるのでしょうか? 社会保障がその役割を担うとい事ですが、政府は借金が世界で一番大きい国になってしまい、今のままでやっていったら将来現在の社会保障を維持できなくなってしまうでしょう。国が頼りなくてあらゆる人が政府に不信感を持つようになり、日本人の根深い不安というのは解決が出来ないように見えます。

これに対してアメリカの不安はどうでしょうか? アメリカは、日本以上に貧富の差や差別の問題があるのですが、アメリカ人は不思議なことにどんなに貧乏になってもポジティブな思考が残っています。アメリカでは、失業や医療費の負担に対して日本のように保険制度が整っていないため、医療費の負担は半端な額ではありません。そして、教育費も、例えば大学の費用は日本よりはるかにかかります。

アメリカの伝統的な製造業はどんどん衰退していっている。しかし、アメリカ人の多くは、自分は何とかすれば富と成功を得られるという、can do精神があります。これはオバマ大統領も「We can do, Yes we can do」と言っていましたし、トランプ大統領も「can do」精神です。この様にポジティブに考えている一方で、アメリカ人には色々な不安もあるはずです。どうして不安とポジティブ思考の2つが両立するのかが不思議な所です。

このように日本とアメリカでは同様に不安を抱えていますが、その精神構造に違いがあります。ポジティブ思考が一つ目の違いです。次に、アメリカはエリートに対する反エリートという、不安があるが俺たちはあんなエリート・権力者とは違うといった、根源的な平等主義や反政府思考があるため、何か不安があればかなり大きな社会運動が生まれるのです。そして、アメリカの場合には様々な教会や人種といった共同体がきちんと機能しているので、どうしても落ちこぼれてしまうとそこに最後の救いがあります。アメリカ人は全体として、日本よりも生きていくのは大変そうですが、不安はポジティブな思考で解消されていくという不思議な国になっています。

日本では地域、社会、家庭といった拠り所になるべきコミュニティーが今少しずつ崩れていっているため、どうしてもお金だよりになってしまいます。最後は誰かに頼るというのがあるのですが、その拠り所がなくなった場合、それにとって代わるものは何になるのでしょうか。政府に不信があったとしても、日本人はみんなぶつぶつ文句は言うのですが、アメリカほど大きなデモが起きたりはしません。何か人任せで、でも不安の解決はなかなかできない。これがここ20年間経済が低迷する大きな要因になってしまっています。

今日のまとめです。アメリカは自分で働けば報われるし、仮に失敗しても許されて最後は誰かが助けてくれる面があります。そのため、アメリカ人は日本より本当はもっと大きな不安があるのに、不安が解消されているのです。しかし、我々日本人は、どういうわけかこの20年くらい不安の悪循環に入ってしまっていて、これをどうやって抜けられるのかをよく考えていくことが必要です。

分野: 経営学 |スピーカー: 久原正治

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