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聞こえて来ない声を聴く

塚崎公義 経済予測、経済事情、日本経済、経済学

18/03/15

今回は、聞こえて来ない声を聴くべきという話です。

大教室で講義をしている時に、「暑いから暖房を切って下さい」という学生がいたとします。すぐに暖房を切ると、残りの学生から「寒い」という苦情が来るかも知れないので、「暖房を切った方が良いと思う人は手を挙げて」というアンケートを取る必要があります。教室が暑いから不満だ、という学生は声を上げますが、今の教室の温度は丁度良い、と思っている学生は、黙っています。わざわざ手を挙げて、「今の暖房は丁度良いので、そのままにしておいて下さい」などと言う学生はいません。

むかし、経済に詳しくない政治家がいました。彼の所に、地元の高齢者が陳情に来ました。「私たち金利生活者は、金利が低くて困っています。金利を上げて下さい」と言いました。彼は、さっそく記者会見で「金利が低すぎてケシカラン。金利を上げるべきだ」と発言しました。金利を決めるのは日銀の仕事なので、政治家が口出しするのは如何なものかと思いますが、その話は良いことにします。地元では、記者会見を聞いた中小企業が怒鳴り込みに来ました。「金利が低いから中小企業が生きていられるのだ。金利が上がったら、我々は倒産だ」というわけです。政治家は、金利が低くて困るという陳情を受けたら、すぐに記者会見を開くのではなく、「金利が低くて喜んでいる人がいるかも知れない」と考えてみるべきでした。しかし、「言うは易く、行なうは難し」です。

企業が、御客様からの苦情を聞いて、製品の改良に活かしているという話を聞きます。それは、とても大切な事ですが、気をつけなければならない事があります。それは、製品を買わなかった人の不満は耳に入って来ないという事です。「製品を買ったら、すぐに壊れた」という苦情が来たら、企業は頑丈な製品を作るようになります。でも実は、「その企業の製品は、重くてデザインも悪いから、ライバルの製品を買っている」という客も大勢います。そのような客の声が聞こえて来ないので、企業はますます頑丈な物を作り、製品が重くなり、デザインも悪くなり、ますます売れなくなるかも知れません。本当ならば、ライバルの製品を買った人に聞いてみたいです。「どうして我が社の製品ではなく、ライバルの製品を買ったのですか?」と聞きたいのですが、なかなか難しいです。

政府は、外国人観光客に来てもらおうと頑張っています。そこで、日本に来た外国人に、アンケートをとっています。日本のどこが好きですか?日本のどこを改善したら良いと思いますか?といった具合です。でも、本当は、日本を選ばなかった外国人に、「どうして日本を選ばなかったのですか?何をすれば、次は日本を選んでもらえますか?」と聞くべきです。しかし、これもなかなか難しいです。

さて、少し話題を変えます。パチンコ屋に入ると、大もうけして笑が止まらないお客が結構いて、負けて悔しがっているお客が少ししかいないという場合があります。この店はお客にやさしい店だなと思ってしまいますが、そうでもないので注意が必要です。朝から1000人のお客が来て、負けた990人はすでに店を出ていて、勝った10人だけが店に残っているという場合が多いからです。私が店に入った時に、店の中にいたお客は、朝から来店した1000人のなかで、たまたま勝った10人だったということです。私には、すでに店を出てしまった990人の姿は見えないので、この店はお客に優しい店だと誤解してしまいます。それで自分も儲けようと思っても、991人目の負け客になる可能性が高いです。

パチンコくらいであれば良いですが、気をつけないと学生が人生を間違える可能性もあります。それは、起業して成功した人の話を聞く場合です。会社を作って大金持ちになった人は、「サラリーマンなんてバカバカしい。学生諸君も、会社を作って大金持ちになろう」と言うと思います。しかし、会社を作って失敗して破産した人は、マスコミに登場しませんし、学生の見えない所でひっそり暮らしています。だから、学生は、成功した人の話だけを聞いて、「自分も会社を作れば大金持ちになれる」と考えてしまう可能性があります。学生が夢を持つ事は大切です。でも、夢を追う事にはリスクが伴うのだという事を正しく認識して、それでも自分は夢をおうのだと決心してくれるなら良いですが、リスクがあることに気付かずに起業してしまうのは、好ましい事ではありません。

今度は、ニュースの話をします。円高になると、輸出企業が苦しいというニュースが流れますが、輸入企業が儲かっているというニュースは余り流れません。輸出企業は円高になると大きな声を出します。「大変だ。ボーナスは払えない。部品メーカーには値下げを御願いしたい。政府には補助金を御願いしたい」というわけです。でも、輸入企業は黙っています。「儲かっている」と発言すると、労働組合が賃上げ要求をし、部品メーカーが値上げ要求をし、税務署が税務調査に来るからです。そこで、ニュースだけ見ていると、円高で日本経済は苦しいと思ってしまいますが、そんな事はありません。日本は輸出と輸入が大体同じ金額なので、輸入で儲かっている会社と輸出で苦しんでいる会社が、大体同じだけあるわけです。今度は円安になると、輸出企業が黙り、輸入企業が大きな声を出しますが、これも同じことです。気をつけていないと、「円高でも円安でも日本経済は苦しい」と考えてしまいそうですが、そんな筈はありません。

まとめ:聞こえて来る声が、世の中の声だとは限りません。何か発言する人がいたら、「黙っている人は何を考えているのだろうか?」と考える必要があります。しかし、「言うは易く、行なうは難し」です。

分野: 経済予測 |スピーカー: 塚崎公義

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