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EU離脱交渉の進捗

村藤功 企業財務 M&A

18/01/17

EU離脱交渉の進捗を今日はお話したいと思います。以前から何度も取り上げているのですが、やっと離脱条件について一区切りつき通商交渉が開始されることになりました。一昨年の6月に国民投票をやり去年の3月に離脱通知を出して、去年の6月に交渉を開始したのですがなかなか合意出来ずに結構時間がかかっています。

なぜかというと3つの大きな問題が最初にあったからです。イギリス内のEU市民をどうするかという問題は割とすぐに合意出来たのですが、精算金問題が火を噴いたわけです。最初EUからの600億ユーロを払えという要求に対して、イギリスが200億ユーロしか払いたくないと主張し、しかも一部の人は全然払いたくないと考えていました。この様な状況で12月になり、メイ首相がこれでは通商交渉が出来ないから500億ユーロの支払いを政治決断し、EUがまあいいかと言って合意に達したのです。

これでやっと落ち着いて通商関係の話にいけるかと思ったら、3番目の主要問題であった北アイルランド国境問題で合意ができません。北アイルランドはプロテスタントが多いため、南のカトリックと分離されていたいと考えています。今までは厳格な国境管理がないため行ったり来たりが出来たので、イギリスとEUは今まで通り国境を開放的にしておこうとしました。しかし、北アイルランドは厳格な国境を持たないと嫌だと主張し、イギリスとEUがせっかく合意しかけたところを止めに入ったのです。北アイルランドはメイ首相と閣外協力を結んでいるのですけど、仮で開放ということにしておこうと先送りする形で、3つの問題は大体解決ということにしました。

この様に、精算金ではイギリスが譲り、北アイルランドの問題は本当にはちゃんと解決していないのですけど少し先送りをして、通商関係の交渉に進む事になりました。これからのスケジュールですが、そもそも今年の10月ぐらいまでに決めないと間に合わないだろうと言われています。なぜかと言うと、通知を出したのが2017年の3月で離脱が2019年の3月の予定なので、半年くらいかけて脱退協定の承認をEUとイギリスの議会から得る必要があるからです。2019年3月離脱の半年前というと、今年の秋になります。そのため、今年の秋までに色々な交渉事を決めておかないと、脱退協定の承認がEUとイギリスの両方で出来ないということになります。それでイギリスも焦り、もう仕方がないから500億ユーロ払いますよと言って通商交渉に向かったということでした。

離脱後ですが、イギリスが移行期間を2年くらい欲しいと言っています。これに対して、EUは1年9か月ならいいでしょうと言っています。違いは3か月ですけどそこで揉めていて、この春ぐらいまでには決着がつく話です。EUとの通商関係は移行期間中は守られるわけですが、EUから離脱するのでEUが他国と結んでいるFTA等は移行期間であっても全部適用不可になります。

例えば、去年の12月に日欧EPAというEUと日本の間のTPPの様な貿易協定が交渉妥結しました。今年の夏に署名して、来年の春くらいから発効とされているのですが、来年の春はちょうどイギリスが離脱する時期です。日欧EPAはEUには適用されるため、イギリスが離脱するとイギリスには適用されないということになってしまいます。この様な、イギリスがEUから抜けることで対応しないといけない国際協定は750ぐらいと大変な数あるのです。

750も交渉しないといけないとなると大変な事で、交渉する人をどうするのかでイギリス内では騒ぎになっていますし、そもそも10月までに合意できるわけがありません。その後の移行期間が1年9か月であっても2年であっても、そこでも合意できないみたいなことが言われていている状況です。イギリスの輸出入の半分はEUなので、少なくともイギリスとEUのFTAぐらいは何とかしておかないとまずいのですが、それも間に合わなかったら大変なことになるでしょう。みんなイギリスからEUに逃げている所です。一体750の内のどの程度のものがいつまでに合意できるのでしょうか。

今まで全く始められなかった事がようやく始まるみたいなことをEUが言いはじめたわけですが、単にEUとイギリスでFTAの話をするだけではありません。EUと色々な国のFTAや、金融・医薬品・漁業といったFTAでカバーされないものもあります。そのため、いつまでに何を合意できるのかという事がとても重要になっています。EUにとってはカナダとのFTAがEU外の国とのFTAの中で一番自由度が高いため、カナダモデルでいいとEUは言っています。これに対して、イギリスはカナダモデルをベースに更に物やお金の移動は全部自由にしてくれ等を主張しています。これもそう簡単に合意できるわけがない状況です。

今日のまとめです。イギリスが2016年の6月に国民投票でEU離脱を選択して、去年の3月に離脱通知を出して来年の3月に離脱することになりました。しかし、6月の総選挙でメイ首相は負け思うようにはならないのですが、国内の反対を受けながらも離脱条件として500億ユーロを払うということでEUに妥協して通商交渉がやっと始まるところに漕ぎつけました。最初に始まるのは離脱後の移行期間をどれぐらいにするかということですが、大変なのはこれからで、ざっと750もの国際協定の交渉をしないといけないという状況です。

分野: その他 |スピーカー: 村藤功

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