QTnet モーニングビジネススクール

QTnet
モーニングビジネススクールWeb版

FM FUKUOKAで放送中「QTnet モーニングビジネススクール」オンエア内容をWeb版でご覧いただけます。
ポッドキャスティングやブログで毎日のオンエア内容をチェック!

PODCASTING RSSで登録 PODCASTING iTunesで登録

タグ

納期管理(4):ジャストインタイム方式

目代武史 企業戦略、生産管理

17/11/08

今日は工場における生産管理の手法として有名なジャストインタイム方式についてです。ジャストインタイム方式は、その英語の頭文字をとってJIT、ジット方式と呼ばれますが、トヨタが長年にわたる試行錯誤を経て築き上げたものです。今や世界中の生産現場で導入され、海外の生産管理の教科書でも必ずとりあげられる手法になっています。

ジャストインタイム方式の具体的な手法は、トヨタの大野耐一によって作り上げらましたが、JIT方式の発想自体はトヨタ自動車の2代目社長である豊田喜一郎によって提唱されました。1930年代当時の日本の製造業はアメリカなどの先進国と比べると、品質の面でも生産性の面でも非常に立ち遅れていました。その一因として工場内における在庫の多さがありました。喜一郎は、「所定の製産に対して余分の労力と時間の過剰を出さないようにする事」の重要性を指摘し、「ジャストインタイム」に各部品が整えられることが大切と説きました。
 ただ、これはある種の理想で、この構想自体が具体化するのは戦後のことです。そのきっかけになったのが、アメリカのスーパーマーケットでした。スーパーマーケットでは、商品が所定の棚に所定の量だけ陳列されています。お客様は必要な品を自分で棚から取り出してレジで精算します。店員は棚の商品が少なくなった分だけを後から補充していきます。
 これを生産現場に応用したのがジャストインタイムです。生産工程には、後工程と前工程がありますが、後工程はスーパーマーケットでいう所のお客様にあたります。前工程がその商品棚にあたります。後工程の人が、前工程の商品棚に必要な時に必要なだけ部品を取りに行き、前工程の方は商品棚が減った分だけ部品を補充生産するという発想です。これがジャストインタイムの源流になりました。
もう少し具体的にその仕組みを説明します。伝統的な生産システムでは前回ご紹介した資材所要量計画(MRP)などの形で立てられた生産計画に基づき、各工程で部品が組み立てられていき、下流へ押し出されるように流れていきます。これをプッシュ生産と言います。
 一方でジャストインタイム方式では、後工程が前工程に必要な部品を取りに行きます。前工程も必要な部品は更に前の工程に取りに行きます。これを繰り返すことで下流から上流へと逆流する形で生産が繋がっていきます。こうしたことからジャストインタイムはプル生産もしくは引っ張り方式と呼ばれます。

さて、各工程には生産した品物を一時的に置いておく棚が設けられています。トヨタ系の工場ではこれを商品棚ということもあります。まさにスーパーマーケットの商品棚と同じです。この棚には所定の部品が所定の量だけ納められるようになっています。後工程の作業者は、この棚から必要な部品を買い物するように取りに行きます。この時に買い物リストにあたるカードを使います。それがいわゆる「かんばん」と呼ばれる帳票です。ちなみに、この「かんばん」というのは鉄板で作った厚い板のようなものではなくて、紙の伝票です。この「かんばん」には部品名や部品数、部品置き場等の情報が記載されています。
 この「かんばん」は、買い物メモであると同時に通貨のような役割を果たします。後工程の作業者はこの「かんばん」と呼ばれる伝票を持って前工程に行って必要な部品を引き取ってきます。部品は一定の数量が部品箱に納められていて、部品箱1つにつき「かんばん」1枚の対応になっています。「かんばん」1枚なら部品箱を1つ引き取ります。この「かんばん」の枚数以上は部品箱を持って帰ることが出来ないという意味では、まさにお金のような役割もしています。部品は後工程に流れ、「かんばん」は前工程に流れていきます。この物と「かんばん」の循環を繰り返すことで生産工程が繋がっていきます。

このやり方は、ある意味で大変アナログです。コンピュータによる高度な計算は必要ありません。日本で最も利益を上げている企業であるトヨタが、どうしてこのようなアナログかつローテクなやり方を続けているのかということですが、最大の利点の一つは、「かんばん」を用いたジャストインタイム方式が、計画と現実の乖離を防ぐ優れた手法であるからです。以前ご紹介したようにMRPなどの生産計画法はコンピュータを用いることで大変高度な生産計画を立てることができます。しかし、生産現場の大小さまざまなトラブル情報をリアルタイムでコンピュータに反映させないと、生産計画は生産現場の実情からどんどん離れていってしまいます。一方でジャストインタイム方式では、「かんばん」が部品と対になって現場を循環する仕組みとなっています。「かんばん」が動かなければ部品箱も移動しません。したがって、余計な生産も行われないという仕組みになっています。これはある種の逆転の発想でして、もの、つまり部品箱自身に「かんばん」を運ばせることで、IoTのようなハイテクを用いなくても物の生産を制御することを可能にしています。

今日のまとめです。今日は生産管理の手法の一つであるジャストインタイム方式についてご紹介しました。必要なものを必要な時に必要なだけ生産することを目指した生産方式です。その手法となるのが「かんばん」と呼ばれる循環伝票です。「かんばん」と部品の移動を常に同期させることで、必要以上の部品を生産させないようにする仕組みがジャストインタイム方式の特徴と言えます。

分野: 企業戦略 生産管理 |スピーカー: 目代武史

トップページに戻る

  • RADIKO.JP