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ブックレビュー(1)戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎 『失敗の本質--日本軍の組織論的研究』中公文庫

永田晃也 技術経営、科学技術政策

17/11/21

 これからイノベーション・マネジメントに関するトピックの合間に、時々ブックレビューのシリーズを入れてみようと思います。イノベーション・マネジメントに限らず、経営課題を深く考える上で参考になる本を取り上げて紹介していきます。取り上げる本は新刊書に限らず、分野も経営について考える内容を含むものであれば、経営学の専門書に限らないことにします。

 このシリーズ第1回でご紹介する本は、昨年度のイブニング・ビジネススクールでも取り上げた『失敗の本質--日本軍の組織論的研究』です。この本は、戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎という6名の先生がたの共著によるもので、初版は1984年にダイヤモンド社から刊行されていますが、現在では中公文庫でも読むことができます。多くの経営者や自治体の首長などが、この本を座右の書として挙げているということもあって、様々な方面から関心を集め続けてきた本です。
 内容は、防衛大学校で行われた共同研究の成果で、著者たちは大東亜戦争での日本軍の作戦上の失敗を組織論的な観点から分析し、失敗の本質を理論的に説明しています。この共同研究で著者たちが採用した方法は事例研究で、6つの事例--ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦を分析しています。著者たちの分析のスタンスについては、いくつか留意しておきたい点があります。まず、戦史に関する詳細は再検討の対象としていないという点です。また、あくまでも個々の作戦レベルでの意思決定などを分析の対象としているのであって、より大局的な問題--そもそも何故勝ち目のない戦争に突入することになったのかといった問題は検討していないという点です。
 6つの事例分析からは、それぞれ重要な知見が引き出されているのですが、個別に紹介する時間はないので、どのように分析結果がまとめられているのかを見ておきます。
 まず、戦略上の失敗要因としては、戦略目的があいまいであったため、意思疎通に支障を来たし、あるいは兵力の集中が損なわれた点。戦略志向が短期決戦型で攻撃を重視する一方、兵站(物資の補給など)が軽視される傾向があったという点。戦略策定が主観的で科学的な思考を欠いていた点、などが指摘されています。
 また、組織上の失敗要因としては、人的ネットワークを偏重していたため、官僚制の中に情緒性を混在させた特異な組織になっていたという点。失敗の経験から積極的に学習しようとする姿勢を欠いていたという点。プロセスや動機を重視する評価を行う傾向があったため、明らかな失敗に対しても組織的な反省を含めた適切な評価が下されなかった点、などが指摘されています。
 著者たちは、こうした作戦上の失敗から教訓を引き出すため、日本軍の組織上の問題を環境適応という観点に立って分析しています。ここで著者たちが依拠している理論は、組織の環境適応理論(コンティンジェンシー理論)と呼ばれており、有効な組織構造や管理方法は、環境条件に適応して決まるという見方を提起したものです。さらに、この理論を批判的に検討したポスト・コンティンジェンシー理論の観点も取り入れています。
 分析の結果、著者たちは1つの逆説的な結論に到達しています。帝国陸海軍には、過去の成功経験に基づく戦略の原型がありました。それは、陸軍においては接近戦を重視する白兵銃剣主義であり、海軍においては艦隊決戦を重視する大鑑巨砲主義と呼ばれる戦略思想だったのですが、そうした戦略原型に適応し過ぎた結果、自己革新能力を失っていたというのです。その結果、陸軍と海軍が連携する米軍の水陸両用作戦には対応できず、戦略思想が航空戦力を核とする航空主兵に向かっていた世界的な動向にも遅れをとったというわけです。
 変化に対応するために、一度学習したことを意識的に捨て去ることを「学習棄却」(unlearning)と言いますが、それができなかったことが、最大の失敗の本質だったという発見が、この本の結論です。著者の一人である野中先生は、以前この本の結論を、「成功は失敗の元」と説明されたことがあります。

今回のまとめ: この本が、経営者たちに読み継がれている理由の1つは、日本の企業も日本軍と同様に過去の成功経験が固定化し、学習棄却ができ難い組織になっているのではないかという気づきによるものかも知れません。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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