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正社員有効求人倍率と日本の雇用市場(その1)

平松拓 企業財務管理、国際金融

17/09/06

今年の6月、正社員の有効求人倍率が1倍を超えた事がニュースになりました。最近では、トラック運転手や保育士など一部の業種に限らず、コンビニや飲食店などを含め、いたるところで人手不足・人材難という話を耳にするようになりました。実際に人手不足で困っておられる事業者の方々も少なくないと思います。今回と次回の2回、この有効求人倍率と人手不足の問題を取り上げてみたいと思います。

有効求人倍率とは、ハローワークに登録された有効求人数の有効求職者数に対する倍率です。分かり易く言うと、求人企業等が採用したがっている人数の、職を求めている人数に対する倍率という事です。それがパートタイムやフルタイムといった働き方別に、それから業種別・地域別に数字が公表されています。

その中に正社員についての有効求人倍率があるのですけど、この場合の正社員とはパートタイムを除き、且つ、新卒者を除いた求人・求職者数で計算されたもので、私を含め、一般サラリーマンが転職を考える時の市場需給を表す数字という風にも考えることが出来ると思います。

この有効求人倍率が1を超えたという事は、正社員として仕事に就きたいという人に対して、それ以上の数の人を企業が正社員として雇いたいと考えているということです。正社員の有効求人倍率が1を超えたという、この水準に至る経緯を見ると、正社員についての統計が辿れる2004年の11月の時点では、その倍率は0.54でした。その後0.6台まで徐々に増えたのですが、2008年のリーマンショック後の不景気で、一時0.25台まで低下しました。しかし、その後持ち直して、アベノミクスの効果が出始めた2014年には0.65と過去の記録を塗り替え、さらにその後はさらに上昇の一途をたどって、本年の6月の1超えに至った訳です。

求人と求職の間には条件のミスマッチがあるので、この「1倍」という水準自体にはそれほど大きな意味があるわけではありませんが、重要なのは近年急速な高まりを示しているということです。慢性的な人手不足が生じていた高度成長期とは違って、求人する企業の側にとっては、一般に高コストで一旦採用したら簡単に削減できない正社員の募集はリスクが相対的に大きいことから、パートタイマーや有期雇用など、他の類別での求人を先行させるのが一般的となっています。そのため、正社員の有効求人倍率はそれらの類別の倍率より低い傾向にあります。しかし、急速な有効求人倍率の上昇は、不足の状態が長らく続いているアルバイトやパートに続いて、とうとう正社員で募集しても人を集めることが難しくなっているということを示しています。

こうした状況が生じている背景の一つには、第二次安倍政権の誕生と時を同じくして始まったアベノミクス景気が丸4年半続いているということがあります。この景気回復をもたらした企業活動の活性化により、正社員の有効求人数はこの4年半で31万人増加しています。しかし、実は有効求人倍率の急上昇の背景としては、分子の求人数の増加よりも、分母の求職者数の減少、つまり、仕事を求める人の数が減っていることの影響の方が大きいのです。正社員の有効求人倍率の算式に使われるパート以外の常用雇用を希望する求職者数は、この4年半で56万人も減っているのです。では、どうしてこのように正社員として採用されたいという求職者数が減少しているのでしょうか。

この点については、好景気の持続で既に新しい職に就いたり現在の職に満足したりしている人が増えたという事も考えられますが、そもそも正社員となり得るような年代、すなわち、15歳から65歳までの人口(生産年齢人口)が大きく減っているということがあります。少子高齢化により、生産年齢人口は1995年にピークアウトしましたが、その後20年間で何と1000万人も減少しました。そして今後も、毎年30万人を上回るペースで減少が続くことが予想されています。このことは、今後多少景気が悪くなったとしても、人手不足はそんなに簡単には解消せず、時間の経過とともにより深刻化することを示しています。

工員がいないと工場の操業率は低下しますし、運転手の不足により輸送が滞れば、それも工場の操業停止の原因となります。こうして日本企業の生産性が低下して、海外の企業との間で競争力を失うようであれば、GDP成長率もマイナスに転じることは避けられないでしょう。こういうことを考えると、正社員の有効求人倍率が1を超えたという事について、喜んでばかりもいられず、むしろ心配が増してくるわけです。では、それに対してどういう対応が考えられるかということについては、次回お話したいと思います。

今日のまとめです。正社員の有効求人倍率が急上昇して1を超えましたが、その水準自体に大きな意味はないにしても、この倍率の急上昇の背景を考えると、生産年齢人口の急激な減少という、日本経済の成長を維持する上では取り組まねばならない、大きな問題の存在が見えてきます。

分野: ファイナンス 国際金融 |スピーカー: 平松拓

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