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西部劇と時代劇は日米の経営の違いの源流

久原正治 経営学 (経営戦略、経営組織、日米比較経営、金融機関経営)

17/09/04

日本とアメリカの経営を比較すると、アメリカ型の経営が進んでいると思って日本はずっと真似をしてきたが、果たしてそれがいいのかどうかが論点です。前回は、映画を観ると日米の経営の違いが分かるという事で、アメリカ映画の話をしました。

今日は、このような違いは歴史的なものなのか、という話です。これは専門用語で言うと、「経路依存」と言います。「経路依存」とは、元々なにかがあったからそれに従って現在の制度や人々の行動が支配されているという事です。アメリカ映画の西部劇と日本映画の時代劇を比べる事で、それが分かるという話になります。

西部劇と時代劇を比べると言うと、皆さん意外に思うようです。実は西部劇というのは、1865年ぐらいの時期の話です。つまり、江戸の末期でちょうど時代劇と同じ頃の話になります。

まず、時代劇からみてみます。江戸時代は、藩があって藩主がいてその下に侍がいました。侍というのは中間管理職で、映画では「武士の家計簿(2010年)」や「武士の献立(2013年)」に見られる様に、侍はサラリーマンのように働き経理とか賄いを担当していました。その下に農民がいて、農民は領主から土地を与えられその土地を一生懸命耕す。それを侍が管理し、領主が全部差配して、全体として共同体になっていく。そして、この共同体から外れてしまうとみんなからはじかれてしまうため、共同体の中で一所懸命に働いていく事で時代劇が成り立っています。

一方で、西部劇というのは、1865年頃は丁度南北戦争が終わった後で、大陸横断鉄道も1869年に西部と東部を結んだ頃の話です。当時テキサス州に野牛がいっぱいいました。これは1頭が2ドルぐらいで買えます。そうすると東部の資本家がこのテキサスの野牛に目をつけ、ここにカウボーイ12人と幌馬車1台とそれから牛2,500頭で1つの牛追いの集団をつくった。この集団に投資をするのですが、この牛追いの集団の事を「キャトルドライブ」と呼んでいます。このキャトルというのは実は、キャピタルの語源になっています。つまり、資本を投下して、テキサスにいた牛を大陸横断鉄道が通っているカンザスやワイオミングまで運んでいくと、途中に牧草がいっぱいありますから、牛が段々成長していって、鉄道の駅の所で丁度売り頃の牛に育つ。そうすると最初2ドルぐらいで買った牛が10倍以上に値上がりするという事で、東部の資本家はここに資金を投入しました。

ところが、途中の原野にヨーロッパから生活に困った人が移住してきて、小さな牧場主がいっぱい出来てきたのです。彼らは自分の土地を牛が通ってしまうと土地を荒らされるため、自分の土地を守るためにカウボーイといわゆるガンファイトをやりました。ここでお互いに牛の所有権と土地の所有権の争奪の闘争が始まります。保安官とかを自分達の仲間に入れて、自分のガンで所有権を勝ち取っていく、これが西部劇なのです。

これは私的所有権が出発点にあって、それを自分の力で守るというのがアメリカの資本主義であることを示します。会社を売買していく事は、ここから出て来ている。所有権をどうやって高めて人に売るかという事がポイントになる。

ところが、先ほどの侍の方は、仲間の共同体の中で一所懸命やっていればみんな守られるという事で、いわゆる日本的な会社を守って会社の中で一家主義みたいな形が出てくる。だから、自分の会社を人に売るなんて事をあまり考えられないような資本主義になっていきます。

したがって、西部劇はカウボーイ資本主義で、時代劇はサムライ資本主義と私は呼んでいるわけです。1865年頃に日本の資本主義とアメリカの資本主義の現在の違いが出来ていて、それはそれぞれ時代劇、それからカウボーイの方は、例えばジョン・ウェインの西部劇はこういうカウボーイと農場主の争いを扱っていますから、そういった映画を観ればよく分かるという事になっています。

西部劇は実は、土地の所有権や牛の所有権を巡って争う話です。そして、それを自分で守るために自分で制度を作っていく。投資をしたりフロンティアを求めて移動するというのは、アメリカの資本主義の基本にある。特に「赤い河(1952年ハワードホークス監督)」という西部劇映画が、この話が一番よく分かります。

時代劇の方は、最初に申し上げた「武士の家計簿」や「武士の献立」がお勧めで、侍はサラリーマンだなという事がよく分かりますから、ぜひこれを比べて頂ければいいと思います。侍は刀を抜かないです。

今日のまとめです。日本とアメリカの経営の違いは映画で分かるのですが、歴史的に観るために時代劇と西部劇を比較すると、西部劇では自分の所有権を自分達で守るのに対して、時代劇ではお上が守ってくれる。この違いがよく分かると思います。

分野: 経営学 |スピーカー: 久原正治

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