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キーワード(46) 内発的動機づけ

永田晃也 技術経営、科学技術政策

17/08/25

今日のテーマ: キーワードで理解するイノベーション・マネジメント (46) 内発的動機づけ


今回は「内発的動機づけ」というキーワードを取り上げます。
 「動機づけ」という言葉は、仕事などに対するやる気を起こさせることとして広く知られていますし、「モチベーション」という英語表現でお聞きになることもあると思います。「内発的動機づけ」とは、仕事などの活動そのものがやりがいのある目的として動機づけの要因になっている状態を意味しています。一方、経済的な報酬などがやる気を引き出す要因になっているときは、外発的に動機づけられた状態と呼ばれます。
 この語をイノベーション・マネジメントのキーワードとして取り上げるのは、技術的イノベーションの担い手となる研究者や技術者といった職種に求められる創造性が発揮される上では、特に内発的動機づけが重要だと見られてきたし、この点を実証する研究も少なからず行われてきたからです。

 はじめに1つの古典的な研究の結果を紹介しておきたいと思います。ミシガン大学の2人の研究者、ドナルド・ペルツとフランク・アンドリュースは、企業内で働く1,300人の研究者を対象とした調査を行い、どのような状況の下で研究者が高い創造性を発揮するのかを分析し、その結果を1966年に出版しています。その主要な発見事実の1つは、研究者は自己のアイデアを自由に研究できる環境が与えられ、真に興味のある研究に動機づけられるときに高い業績を上げているというものでした。また、研究課題は、その重要性というよりも、それが研究者自身にとって挑戦的な課題であるときにモラール(やる気)が高まるという結果も示しています。
 ペルツ=アンドリュースの分析結果は、このように研究者が高い業績を上げるためには内発的動機づけが重要であることを示すものでしたが、彼らはまた研究者に不満を生じさせないようにするために金銭的報酬や昇進の機会を軽視してはならないと述べています。その理由は、そもそも職務に対する満足をもたらす要因と、不満足をもたらす要因は別であると考えれば、理解できるでしょう。

 研究者や技術者が内発的要因に動機づけられているという調査結果は、この他にも数多くあるのですが、価値観が異なる国や地域でも常に同様の結果が得られるとは限りません。そこで、もう1つ、近年の日本において行われた研究の結果を紹介しておきたいと思います。
 大阪大学の開本浩矢教授は、神戸大学工学部の卒業生を対象として1988年に質問票調査を行い、5,125名から得られた回答に基づく分析結果を2006年に出版された本にまとめています。その結果は、内発的動機づけの重要性を指摘してきた従来の研究結果とは異なるものでした。開本教授の調査では、技術者の職種を研究技術者と開発技術者に分けているのですが、研究技術者では外発的モチベーターとして経済的報酬が望まれており、開発技術者では外発的モチベーターとして昇進の機会が重視されていたと報告されています。
 これは興味深い結果ですが、ここから直ちに日本の技術者は専ら外発的要因に動機づけられていると結論づけることはできないでしょう。内発的要因と外発的要因は影響力の強さに違いはあっても、そもそも、あれかこれかの代替的な関係にあるものではないからです。それ故に、ペルツ=アンドリュースは内発的動機づけの重要性を指摘する一方で、金銭的報酬なども軽視すべきではないと述べているわけです。また、開本教授の研究においても、業績の高い技術者では事務系職員との相対的な昇進や給与の高さがモチベーションに強い影響を与えているという分析結果を示した上で、業績の高い技術者は既に十分仕事にやりがいを感じ、内発的に動機づけられているのではないかという解釈を加えています。
 さて、動機づけに関する従来の研究の中には、経済的報酬を与えることが内発的動機づけを低下させることを実験的に示したものもあります。この傾向が研究開発という仕事にも当てはまるのであれば、既に内発的に動機づけられている研究者や技術者を対象に、さらに経済的報酬によって動機づけようとすることは、却って逆効果をもたらす可能性があるので、この点についても注意が必要です。

今回のまとめ: 内発的動機づけとは、仕事などの活動そのものがやる気を引き出す要因になっている状態を言います。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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