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カナダ・ウォータールーのイノベーションハブ(その2)

高田 仁 産学連携マネジメント、技術移転、技術経営(MOT)、アントレプレナーシップ

17/04/21

【今回のまとめ】
・ウォータールーのCommunitechでは、大企業を巻き込んだコーポレート・イノベーション・プログラムが好評だ。オープンな雰囲気のオフィスで、他の入居企業やスタートアップと気軽に交流できる環境がイノベーションを育んでいる。


・前回は、カナダのオンタリオ州でイノベーションのハブとなっているCommunitechの活動の概要を紹介した。今日は、その中でも特にユニークな、大企業を巻き込んだ"コーポレート・イノベーション・プログラム"の仕組みを紹介したい。
・これは、大企業でイノベーションを先導する役割を担うチームを誘致し、施設内や周辺のスタートアップ企業との協業を促している点である。GMやデロイト(監査法人)、IBM、グーグル、キャノン、トムソン・ロイター、パーキン・エルマー・・・等々、フロアをざっと見渡すだけで20社程度の企業ロゴマークがあちこちに掲げられている。この活動は4〜5年前から開始されており、大企業にとってウォータールー地域内で輩出される人材を獲得する良い場所でもある。
・建物内の空間配置もユニークだ。フロアの中心(コア)部分は完全にオープンなスペースで、そこから壁面に向かうにつれて個別企業のセミオープンな場所が確保されている。そこでは、外部からの来訪者や他の入居企業の社員がふらりとやってきて、ソファに座って雑談したり、作成中のプロトタイプを手にとってあれこれと意見交換する姿が見られる。最も壁に近い場所は企業専有スペースだが、必要に応じて透明なガラス扉で仕切るだけで、基本的には中で誰が何をやっているかが見える。つまり、空間全体の極めてオープンな環境が保証されているのだ。企業も、秘密情報を取り扱うのであれば本社で行えばよく、Communitechでは、オープンな環境を最大限に活かして、次のプロジェクトのアイデアを得たりオープンイノベーションの仲間を得たりする。
・ここには、何とカナダ空軍も入居している。カナダ空軍の入居チームによると、軍の装備開発などの面でイノベーションのマインドセットとプロセスを身につけるため、8人が3ヶ月交代でここに"勤務"するという。その背景には、かつて戦闘機の自前開発に成功した経験があり、その潜在力をもっと強くしたいという。
・このCommunitechのコーポレート・イノベーション・プログラムは、好評のためフロアを拡大中である。新たな入居企業は、専属スペース(上述のセミオープンなスペースも含む)の家賃とCommunitechのサービスフィーを合わせて、3〜5年で1Mドルを投資する。決して安くはない金額だが、大企業が自前でこれらの機能を揃えることは不可能なので、"ここにしかない"価値を求めて企業が拠点を構えるのだ。
・このCommunitechのコーポレート・イノベーション・プログラムは、大企業の本社からははるかに遠い"外縁"に位置し、しかも他社との交流が極めて簡単に行える。イノベーション創造について書かれた『メディチ・エフェクト』という書籍があり、その中でルネサンス期のメディチ家の繁栄になぞらえて「イノベーションのアイデアは交差点で生まれる」と記されているが、まさにCommunitechはそれを効果的に実現しているいえる。大企業本体のカルチャーから遠く離れた場所で、スタートアップを含む他企業とのユニークな連携からイノベーションの種を生み出そうとする企業を引き込み、イノベーションの"担い手"として機能させるCommunitechの取り組みは、極めて的を得たものだと感じる。

分野: 産学連携 |スピーカー: 高田 仁

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