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3Mにおけるイノベーション創出(その2)

高田 仁 産学連携マネジメント、技術移転、技術経営(MOT)、アントレプレナーシップ

17/03/14

・前回は、イノベーティブな会社として知られる3Mの初期の成功物語や、戦後すぐに当時の社長が全管理職に向けて出した手紙(自主性の尊重)について紹介した。今回は、同社のイノベーションを支える仕組みについてさらに解説する。
・「リーダーシップ」;同社では、所属部署に関わらずアイデアを発案し、社内の協力者を得て、インフォーマルなチームで試作品づくりや初期のマーケティングを行うことが奨励されている。事業化の可能性を正式に追求すべき段階で、ステージゲート(事業進捗と評価の正式な仕組み)に乗せられ、「3M アクセラレーション(以前のブログ参照)」と呼ばれる透明性の高いプロセスで事業の進捗管理がなされる。このステージゲートに乗る前は完全にインフォーマルで、どのような活動が行われているかの報告は一切不要で、スケジュールも上司の管理もないところが特徴的である。
・「15%カルチャー」;これは、上記のような活動を支えるために、従業員は自分の勤務時間の15%を自分の業務に関係ないことに使っても良いという慣習である。社内の規則に明文化されているわけでもない、不文律となっている。3M関係者によると、恐らく技術系社員の6〜7割が15%を使っているのではないか、ということである。
・「ジェネシスプログラム」・「パイオニアファンド」;インフォーマルな活動には資金が必要な場合もあり、3Mでは所属部署以外の管理職に予算面での支援を要請することもできる。それでも不足する場合は、社内のファンドに応募して資金を獲得する。通常の企業の場合、新規事業のアイデアを思いついて実行しようとすると、組織内で正式なプロジェクトとして認めてもらい、時間・予算・人員を確保せねばならない。プロジェクト立ち上げの承認を得るためには、多大な苦労と時間を要するので、よほど「根性のある」人でない限り、面倒な提案がなされることは難しい。その点で、3Mではアイデアを気軽に試せる環境や手段が設けられており、これがイノベーションの芽を摘まないために重要なのだ。
・「テクノロジー・プラットフォーム」;新製品開発のため、社内に存在する基盤技術を組み合わせて活用できることが不可欠である。そのため、3Mでは46のコア技術が"テクノロジー・プラットフォーム"として棚卸され、社内の誰でもがその技術を活用できる状態となっている。また同社では、「3回電話すればright personに行き当たる」と言われるほど、誰がどの技術の専門家かが社内で明確にされているので、必要な技術を社内で効率的に探索できる。一般的には、社内のどこかの署が協力を要請したとしても、「忙しい」ことを理由に協力を得られないことも少なくないが、3Mでは「技術は会社全体の財産である」と位置づけられ、これによって社員が思いついたアイデアに必要な技術を得て、直ぐに試すことができるのである。
・「テクニカルフォーラム(TIE ; Technology Information Exchangeイベント)」:アイデアを思いついた人が、そのアイデアの妥当性や改善点を知るとともに、必要な仲間や技術を獲得するために、社内の交流イベント(フォーラム)が頻繁に開催されている。そこでは、技術者が自分のアイデアをポスター等で発表し"売り込む"のである。新規事業のアイデアに対する共感者や協力者が得られることは、そのアイデアが実現に向けて一歩前進することを意味する。逆に、全く共感が得られない場合、発案者はアイデアを練り直して再挑戦すればよい。このフォーラムは、謂わば、社内を活用したマーケティングの一環ともいえる。このように、フォーラムで自主性を発揮し、協力者や支援者を獲得する行動が、3Mで重視されるリーダーシップなのである。
・ほかにも「デュアルラダー」と呼ばれる柔軟な人事システム(技術系と管理職の好きな方を選択できる)などもあり、社員が自主性を発揮しやすい仕組みが整えられているのである。
・ただ、自由と自主性を尊重する仕組みだけでは、新しいイノベーションが続々と生まれるわけではない。実は同社では、売上に占める5年以内新製品比率を40%以上に保たねばならないという強制的な製品の更新ルール、謂わば"自浄の仕組み"が導入されており、この目標を達成するため常に古い製品を刷新することを頭に置いて行動しなければならないのだ。

・以上のような仕組みによって、「自由」と「規律」がバランスし、イノベーションを活発に生む環境が形成されていることが、3Mの強みである。

【今回のまとめ】
・3Mでは、自由と自主性を尊重する数々のユニークな仕組みが準備されているが、一方で、売上に占める5年以内新製品比率を40%以上に保たねばならないという強制的な目標が設定されており、これによって「自由」と「規律」のバランスが適切に保たれていることが、イノベーションを活発に生むことにつながっている。

分野: 産学連携 |スピーカー: 高田 仁

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