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製品開発②

金子浩明 テクノロジーマネジメント、オペレーションズマネジメント、日本的経営

17/01/20

今日は製品開発における製品コンセプトの重要性についてお話します。
皆さんはどのように製品の価値をお客さんに伝えますか。例えば、掃除機の価値を伝える際には、「よく吸い込みます」などとアピールしますよね。テレビショッピングでも、「凄い吸引力ですね」、「これは省電力で安いんですよ」など、その掃除機の基本的な機能の良さを伝えます。

しかし、実際にお客さんが商品を買う理由は、機能の良さだけではありません。そのため、商品の機能だけでなく、その商品が持つプラスアルファの良さを伝える必要があります。
「機能プラスアルファの価値を伝える」には、その商品の「コンセプト」を語る必要があります。

ここで、優れた商品のコンセプトの事例として、パナソニック電工の「アラウーノ」というトイレをご紹介します。
この製品は、樹脂素材の開発から始まっています。あるとき、ガラスのような表面を持つ樹脂素材の開発に成功したそうです。この素材はツルツルしているため、汚れが付きません。そのため、最初は風呂場の壁や浴槽に使おうと考えました。しかし、風呂場ではそこまでのニーズがなかったそうです。そこで、この素材を何とか使えないかと考え、トイレが候補に上がりました。しかし、一般的にトイレは陶器で作られています。樹脂のトイレはキャンプ場にある簡易トイレのようなものが多く、タバコの火など焦げてしまうため、樹脂のトイレは難しいだろうと考えられていました。
しかし、せっかくこんなに良い素材があるのだから、チャレンジしてみようということになりました。
また、TOTOやINAX(LIXIL)と違い、パナソニックは自社で陶器を作っておらず、台湾メーカーに外注をしていたということもあり、内製化したいという思いがありました。樹脂には焦げやすいというデメリットがありましたが、メリットもありました。それは陶器に比べて自由に成形できることです。そのため、トイレ掃除の際に困る余分な隙間もなく、水がきれいに流れるような設計が可能でした。その上、表面がツルツルで汚れが付きません。そこで開発陣は「汚れないトイレ」を目指して開発を進めました。これは製品の持つ機能です。先ほどの掃除機の例で言うと、「吸い取ります」というのと同じで、「汚れません」という機能のコンセプトができたわけです。
しかし、「汚れないトイレ」というだけでは、トイレ=陶器という従来のイメージを覆すことはできません。社内からも樹脂のデメリットを不安視する声が挙がっていました。
そこで、マーケティングのチームは、「トイレが汚れないということの価値を、もっと上手に伝えられないだろうか」と思案しました。汚れないということは、言い換えれば「掃除をしなくてもいい」ということです。つまり、家事負担が減るわけです。ある調査では、主婦の半数が毎日トイレ掃除をしているらしく、三大家事負担の中で最も重いことが分かっています。そこで、「汚れない」という消極的な表現ではなく、「トイレがトイレを洗う」という積極的な表現で訴求することにしました。だから製品名も「ヨゴレナーイ」ではなく「アラウーノ」になっているわけです。そして、トイレがトイレを洗っている雰囲気を出すために、横に家庭用洗剤を入れるようなボックスを作り、そこに家庭用洗剤を入れると泡がブワッと立つようにしました。そうすると洗っている感じが出ますよね。実際は洗剤を入れても効果はさほど変わらないらしいですが、目で見て「洗っている」ということが伝わります。
また、アラウーノはトイレにもかかわらず「家電製品」ということをアピールしました。家電には主婦のか富士譚を軽減するというイメージがあります。例えば全自動洗濯機です。特に「自動」というのが重要なキーワードになります。そこでアラウーノの商品コンセプトには「全自動」という言葉が入っています。実際は全自動ではありませんが、家電っぽく「全自動お掃除トイレ」という商品コンセプトで発売しました。「全自動お掃除トイレ」の方が、「汚れないトイレ」よりもずっと魅力的ですよね。まさにこれが商品のコンセプトの重要性です。必ずしも家電製品だけではありません。例えば、無印良品を例に挙げます。無印良品の商品・サービスのコンセプトは「これでいい」です。「これがいい」ではなくて「これでいい」。非常にユニークですよね。無印良品(良品計画)によると、「これが」の「が」にはエゴイズムを感じるらしいのです。これ「で」にすることで、抑制や譲歩を含んだ理性的な判断という印象を与えます。無印はいつもこれでいいの「で」のレベルを上げていくことで約5,000のアイテムを毎年磨きなおしているそうです。このように、「これでいい」と言葉でビシっとコンセプトが決まった瞬間に、製品やサービスの全体のイメージに統一感が出てきます。実際、無印良品で買い物をする多くの人は、「これでいい」という判断基準で買っています。困ったら無印という感じがしませんか。私も文房具をよく忘れるので、つい無印で買うことが多いです。「これでいい」という見事にそのコンセプトにハマっているわけですね。

では、今日のまとめです。
商品やサービスの機能だけを訴求しても、それはお客さんにとっての嬉しさの一部でしかありません。お客さんの立場に立った時に、どういう言葉を使って表現すればその製品やサービスの価値を力強く伝えることができるか。それを考えることが大事です。製品やサービスの魅力を言葉で端的に表現したものを「コンセプト」と言います。優れたコンセプトを生み出すには、製品の機能や特徴を端的に表現するだけでなく、顧客にとって何が嬉しいのか、何が価値になるのかを考え抜く必要があります。アラウーノの例では「汚れないトイレ」よりも「トイレがトイレを洗う」、「全自動お掃除トイレ」の方が、顧客にとって魅力的です。無印良品も、「シンプル」や「無駄が無い」という平凡な表現よりも、「これでいい」というコンセプトの方が、顧客の「賢い消費者である私」という潜在意識を刺激します。
皆さんもご自身の実際にやっているビジネスのコンセプト、あるいはご自身のコンセプトなどを、顧客の立場に立って考え抜いてみてはいかがでしょうか。

分野: 企業戦略 技術経営 |スピーカー: 金子浩明

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