QTnet モーニングビジネススクール

QTnet
モーニングビジネススクールWeb版

FM FUKUOKAで放送中「QTnet モーニングビジネススクール」オンエア内容をWeb版でご覧いただけます。
ポッドキャスティングやブログで毎日のオンエア内容をチェック!

PODCASTING RSSで登録 PODCASTING iTunesで登録

タグ

パナマと便宜置籍船①

星野裕志 国際経営、国際物流

17/01/02

今日はパナマに関するお話です。

この4年間毎年パナマに出張していますが、昨年はパナマ関連でふたつの大きな出来事がありました。ひとつは、世間を騒がせたパナマ・ペーパー=パナマ文書です。タックス・ヘイブンといわれるいわゆる租税回避地としてのパナマを利用して、大企業や個人が税金の節税をしていたといわれるものです。これには10を超える国家元首クラスや日本の企業や個人も含まれていたようです。

タックス・ヘイブンは、企業や個人がペーパーカンパニーを立ち上げて、自国で得た利益を送金することで、税金を回避するという仕組みですが、それ以上に不正に得た利益を送金して資産を移すという「マネー・ローンダリング」に使われていた可能性が指摘されています。パナマは人口350万人くらいですが、70行以上の銀行があるといわれており、中にはマネー・ローンダリングの疑義を持たれている銀行もあるようです。

パナマのもうひとつの出来事とは、良いニュースですが、昨年の6月26日にパナマ運河の9年がかりの拡幅工事が完成しました。1914年に開通したパナマ運河が、102年後の昨年に拡幅したことで、従来よりもかなり大型の船舶が航行できるようになり、アメリカから日本へののシェールガスの輸入なども可能になりました。これからしばらく時間がかかりますが、中南米とアジアの貿易などもより緊密になるのではないかと考えています。

今まではパナマとは、船が運河を通過するだけでしたが、これからはパナマを中心とした貿易の活性化も期待できると思います。米国のトランプ次期大統領が、ペルーやチリやメキシコも加盟するTPPを批准しないことになると、そのインパクトが薄れる可能性があって心配です。
それに確かに一般にはパナマという国は、それほど馴染みはなかったかもしれませんが、日本でもパナマ船籍の貨物船と言えば、船の事故のニュースとかで、パナマ船籍とかリベリア船籍と耳にする機会は多いです。

船籍というのは、船の戸籍のことであり、企業の本社が登記されている場所があるように、必ず船舶が登録されている国があります。船の後部、船尾を見ると必ず国と港が書かれていることがわかります。リベリア、モンロビアとか、ジャパン、神戸とかです。

2013年末のちょっと古い調査ですが、世界の貨物船約10万7千隻の船籍別の内訳を見ると、トップがパナマであり、総トン数であれば、世界の約2割がパナマ船籍、2番目のリベリアが11パーセントです。そう考えると、世界の貨物船の約3分の1が、この2つの国に登録されていることになります。

なぜこの2つの国に集中的に、世界の貨物船が登録されているのかというのは、それはパナマ・ペーパーで租税回避地にお金を預けるということがありましたが、それと同様にこれらの国に登記することに利点があるからです。例えば、実際に船を運航する船会社の本社のある国よりも、登録税や法人税などが低く優遇されていること、運航する船員の国籍の義務がないこと、あるいは安全の基準などがゆるいことなどもあります。

もう少しわかりやすく説明すると、登録税が低く収益に対する課税がされないことに加えて、自国船員の乗組みの義務づけがなければ、賃金の安い外国船員を自由に雇用することができるので、運航費の削減が可能です。例えば、日本を含めた先進国の船員とフィリピンをはじめとする開発途上国の船員の雇用するコスト差は、とても大きいですから。

その結果、これからの便宜置籍船を置く国を便宜置籍国といいますが、これらの国に船舶を実際に登録する国は、日本、ノルウェー、アメリカなどの先国やギリシャの船会社が多いと言われています。


今日のまとめ:昨年は、パナマ運河の拡幅工事の完了とパナマ・ペーパーで話題となったパナマ共和国ですが、今後は中南米貿易の要としてクローズアップされる可能性があります。そのパナマの特有のビジネス形態として、世界で約2割の貨物船が船籍を置く、便宜置籍船について説明しました。

分野: 国際ロジスティクス 国際経営 |スピーカー: 星野裕志

トップページに戻る

  • RADIKO.JP