QTnet モーニングビジネススクール

QTnet
モーニングビジネススクールWeb版

FM FUKUOKAで放送中「QTnet モーニングビジネススクール」オンエア内容をWeb版でご覧いただけます。
ポッドキャスティングやブログで毎日のオンエア内容をチェック!

PODCASTING RSSで登録 PODCASTING iTunesで登録

タグ

補完

金子浩明 テクノロジーマネジメント、オペレーションズマネジメント、日本的経営

16/12/05

今日は、「イノベーション」をテーマにお話します。

「イノベーション」とは、何か私たちの生活を変えるような革新を意味します。それが実際に普及すると当たり前になってしまい、欠かせないものになります。そこでスポットライトが当たるのはイノベーションを起こした人や製品です。例えば、スマホであればアップルとスティーブ・ジョブズです。こうした人や製品が、イノベーションの主役となります。

今回は、あえて脇役に焦点を当てます。イノベーションを起こす上で、主人公や主役の存在が不可欠なのは言うまでもありません。しかし、これまでそれが存在しなかったのは、脇を固める役者が足りなかったためでもあります。

コンビニエンスストア業態が、なぜ「弁当などの日配品中心の業態」に転換することができたのかという例を基に、イノベーションの脇役について考えていきましょう。
弁当は文房具などの雑貨に比べて、客の来店頻度を上げることができます。そのため、コンビニ各社はお弁当を売りたい。だから、今は弁当類をたくさん扱っています。しかし、コンビニが登場した当初は、弁当は主力製品ではありませんでした。それはなぜか。「ほっともっと」や「ほっかほっか亭」などその名称には「ホット」がついていますが、お弁当屋は基本的に「温かい」ということが重要です。では、「温める」ためにはどうしたらいいのか。コンビニの店頭で弁当に火を通すことは難しいわけです。
コンビニでは電子レンジを使用して温めています。電子レンジは、1970年代中盤から徐々に家庭に普及していきました。セブンイレブンの第一号店は1974年に出来たとので、電子レンジの普及とコンビニの普及は重なっています。電子レンジが普及したことで、コンビニが雑貨屋から弁当屋に変わることが可能になりました。電子レンジの普及が、フードセンターとしてのコンビニエンスストアの成立に不可欠だったのです。つまり、イノベーションの主体はセブンイレブンなどのコンビニエンスストアと、セブンイレブンを立ち上げた鈴木敏文氏などですが、電子レンジはその脇役を担っていました。

これは一体何を意味しているのでしょうか。何か事業や製品を考える時は、脇役の存在に注目することで、これまでにない製品やサービスを産み出せる可能性があるということです。

他にも例を挙げましょう。アップルのi-phoneはスマホを普及させました。この製品は、その中に入っている部品が進化したことにより、可能になったのです。スティーブ・ジョブズには昔から製品のイメージがあったようですが、技術が追い付かなかったのです。つまり、脇役の一つは半導体や液晶パネル、電池などの部品です。スマートフォンに関して言うと、液晶パネルの性能の向上の裏側には、バックライトで使う白色LEDの性能の向上がありました。昔の携帯電話は、ボタンが少し緑っぽかったりオレンジっぽかったりしましたが、あれは白が出なかったからです。しかし、ノーベル賞を受賞した白色LEDの発明により、白が出るようになり、現在のような明るい色があの薄さで照らせるようになったわけです。こうした部品の進化が進んだことで、ジョブズがイメージした製品ができるようになったのです。スマートフォンにおけるもうひとつの脇役は、「通信インフラ」です。そもそもインターネットを電話回線でやっていたら、動画どころか音楽すらまともにダウンロードできなかったでしょう。それが今や通信インフラの進化のおかげで、スムースに動画を見ることが可能になりました。つまり、モノの性能が向上しても、それが使える環境が整わなければ普及しません。

これは比較的わかりやすい脇役のパターンです。もうひとつ、少し分かりにくい脇役のパターンがあります。これは、イノベーションと言えるか微妙なのですが、任天堂のWiiについて取り上げます。この製品がヒットしたのはなぜだと思いますか。

製品の特徴としては、直観的な操作によってゲーム初心者でも遊べるという点、子供や老人も含めて皆で一緒に遊べることでした。では、なぜ急にこうした製品が可能になったのでしょうか。もっと前からあっても良さそうではありませんか?

これに対する一般的な説明としては、いわゆる「ニーズの有無」が挙げられます。例えば、ゲームをやって子供時代にゲームに慣れ親しんだ子供が大人になることによって、親が子供に買い与えたという説、団塊世代の人達が、お金はあるけれども実際に使い道がなく、孫などにゲームを買い与えたなどの説などです。このように、Wiiのヒットはマーケットのニーズの変化から説明されることが多いです。
しかし、私はそうは思っていません。昔からそういうニーズはあったと思います。そして任天堂もそのニーズはわかっていたけども実現できなかった。ファミリーコンピューターという名前にも込められているように、家族みんなで遊べるゲーム機のニーズは、以前からあったはずです。ただし、それは潜在的なニーズでした。なぜなら、それを可能にする製品が存在しなかったからです。

では、皆で実際にWiiをプレイする時に、どういうシチュエーションでプレイしているかイメージしてみましょう。恐らく、リビングで、少しテレビから離れて、ぶつからないようにお互いの距離を取ってゲームをしますね。

Wiiが流行する以前、テレビはブラウン管がほとんどでした。そのため、テレビの画面を小さかったわけです。しかし、液晶テレビやプラズマテレビなり、大きくて薄いテレビが普及したことによって、テレビから離れてゲームができるようになりました。これがイノベーションの脇役であり、Wiiが普及する上での補完材でした。

本日のまとめです。

新しい事業を立ち上げる際や、新しい製品やサービスを何か生み出そうとする場合、自分たちの持っている技術や経営資源だけに着目するのではなく、周囲にある補完的な技術や製品の進化に着目することが重要なのです。

分野: 企業戦略 技術経営 |スピーカー: 金子浩明

トップページに戻る

  • RADIKO.JP