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生産性向上へ向けて(2):良い流れの指標(その1)

目代武史 企業戦略、生産管理

16/12/28

1.はじめに
 今日は、生産現場における生産の良い流れをとらえるための指標についてお話ししたいと思います。
これから生産性を高めるための様々な考え方や手法についてお話ししていきますが、今日紹介する指標は、その前提となる基本的な概念です。専門的な話に入る前に、生産管理の共通言語をご理解いただきたいと思います。

2.生産能力とは?
 九州には4つの自動車メーカーが立地していますが、その一つであるダイハツ九州は、2007年に235億円を投じて第2工場を建設し、生産能力を、従来の年間23万台から2倍の46万台に増強しました。「生産能力」とは、ある所定の時間内に通常の操業度で生産した際にどれだけ生産できるかを表す数字です。つまり、ダイハツ九州は、第2工場を生産したことによって、生産できる力がこれまでの23万台から2倍に増えたということです。

 もう一つ、よく使われる指標に「稼働率」があります。「稼働率」とは、「生産能力」に対して、所定時間内で、設備を動かした時間の比率のことです。
 例えば、生産能力が23万台でも、景気後退や円高などにより売れ行きが不調になり、実際の生産台数が14万台程度に落ち込めば、14万台÷23万台で、稼働率は約6割ということになります。稼働率の低下は、販売不振だけではなく、部品供給の停滞によっても起こります。今年4月の熊本地震によるサプライチェーンの寸断によって生じた工場停止は記憶に新しいところです。

3.サイクルタイムとタクトタイムについて
 次に、工場内部の細かい指標についてみていきたいと思います。
 生産工程はいくつもの生産作業の連鎖で成り立っています。このそれぞれの生産作業にかかる時間のことを、「サイクルタイム(cycle time)」といいます。例えば、原材料をとって加工し、また次の原材料の加工に取りかかる。この一つのサイクルにかかる所要時間を「サイクルタイム」と言います。
 これとよく似た指標に「タクトタイム(takt time)」があります。これも、ある作業に取りかかってから終わるまでの時間を指します。この「サイクルタイム」と「タクトタイム」の違いは、生産管理上の役割の違いにあります。タクトというのは、オーケストラの指揮者がふる指揮棒(タクト)と同じ意味です。つまり、指揮者が楽団全体の演奏テンポをコントロールするように、タクトタイムは、生産工程全体の生産テンポをコントロールする管理指標です。タクトタイムは、1日の稼働時間を、その日に生産すべき受注量で割ることによって計算されます。例えば、1日の稼働時間が8時間、すなわち480分で、受注量が480台であれば、単純計算でタクトタイムは1分となります。
 それに対し、サイクルタイムは、各作業時間の技術的な特性によって、固有の作業時間となります。例えば、溶かした樹脂を金型に流し込んで部品を作る射出成型工程では、樹脂が固まるまで一定の時間が必要ですから、ある時間以上はサイクルタイムを短くすることができません。それに対して、組み立て工程は、人中心の作業工程ですので、比較的柔軟に生産ペース、つまりサイクルタイムを変更することができます。
 ものづくりの基本は流れ作りにありますが、この流れを制御する上でタクトタイムは非常に重要な役割を果たしています。タクトタイムは、お客さんからの注文に対し、タイミングよく生産出来るように、生産工程を統制する重要な管理指標です。先ほどの自動車工場の例では、年間生産能力23万台の工場で、お客さんからの注文も23万台であれば、タクトタイムも1分ということになります。もし注文が半分の11万5千台ということになれば、タクトタイムを2倍の2分に設定すれば、在庫を増やすことなく、注文のペースに合わせて、生産のペースを一致させることができます。

 最後にもう一つ生産の流れをとらえる指標を紹介したいと思います。それが、「アイドルタイム(idle time)」というものです。ここでいう「アイドル」は、偶像のアイドルですとか、AKBなどのアイドルではなく、人や機械が仕事が無くて遊んでいる状態を表すアイドルです。車のエンジンのアイドリングと同じです。
 ある生産工程のサイクルタイムが40秒で、工程全体のタクトタイムが1分、つまり60秒だとすると、この工程には20秒の待ち時間が発生します。これが、アイドルタイムです。ところが、この20秒がもったいないからと、この工程をフル稼働させてしまうと、全体の生産ペース、つまりお客さんからの注文ペースを越えて部品を生産してしまうため、工程の後ろに部品在庫の山ができてしまいます。そうすると、諸悪の根源である作りすぎのムダを生んでしまい、かえって工程全体では、部品在庫コストの増大や品質問題を引き起こす危険性が生じてしまいます。
 とはいえ、アイドルタイムは結局何も付加価値を生まない手待ち時間ですから、ムダであることも確かです。ただし、このアイドルタイムというのは、その工程単独で解決できる問題ではありません。視野を広くとって、工程全体で解決すべき問題です。生産管理ではタクトタイムに各工程のサイクルタイムを合わせていくことを、「ラインバランスをとる」と言います。サイクルタイムの凸凹をタクトタイムに合わせていくというイメージです。

 今日は、生産の良い流れをとらえる指標の話をしました。「生産能力」、「稼働率」、「サイクルタイム」、「タクトタイム」、「アイドルタイム」について紹介しました。「タクトタイム」は基本的に、お客さんからの注文ペースで決定します。それに対して、「サイクルタイム」は、各工程に固有な技術的特性から影響を受けます。よどみのない生産の良い流れを作るためには、「タクトタイム」に「サイクルタイム」を合わせ、「ラインバランスを取る」ことが重要となります。

分野: 企業戦略 生産管理 |スピーカー: 目代武史

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