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中国の成長と停滞

村藤功 企業財務 M&A

16/09/15


近年、巨大化しつつある中国は色々なところでトラブルを起こしています。今回はその現状についていくつかみていきたいと思います。

先日、南シナ海における中国の海洋進出を巡り、オランダ・ハーグの国際仲裁裁判所が仲裁裁定を出し、中国が1950年前後から主権を主張する独自の境界線である「九段線」には国際法上の根拠がないと認定をしました。「九段線」はもともと第2次大戦直後に当時の中華民国が南シナ海に主権と管轄が及ぶ11本の線を引き、これを中華人民共和国が引き継いだものです。当時は良好な関係にあったベトナムに配慮してベトナム北部海域で2本減らして9本になり、これが「九段線」と呼ばれています。U 字型で牛の舌のようにも見えることから「中国の赤い舌」と呼ばれています。つまり、「中国の赤い舌」とは南シナ海の中国が主張している国境のことです。この国境がそもそも有効なのかどうかが問題で、アメリカや日本、フィリピンはもちろんのこと、争っている2つの当事国(中国とフィリピン)が仲裁裁判に関与しなくても、一方の意思だけで国際海洋法条約の仲裁裁判は出来ます。その結果今回決まったことは有効だということになり、フィリピンの主張していることが正しいという話になります。ところが、これは日本のマスコミではほとんど出てくることがないのですが、この海洋法条約は、一部の紛争について締約国が裁判手続きから除外することが認められており、中国は2006年に除外宣言しています。ですから中国的に言えば、そもそもこの「九段線」の問題を仲裁裁判で争わないことにするという宣言を2006年にしているのだから、今回の紛争の採決に係る管轄権が仲裁裁判所にはないので無効であるといった主張をしていることになります。もちろん、日本は有効だと主張していますが、片方は全く有効ではないとして、相変わらず分からないことになっています。多数決で言えば、中国に反対する方の数が多いので揉めていますが、フィリピンや日本が中国と戦争出来るわけではありませんし、簡単には物事はいかないということで、南シナ海で中国は色々な問題を作り続けているというのが現状です。

中国国内はどうかということですが、中国には7人の偉い人たちがいます。彼らは政治局の常務委員というポストで、7人中5人が、来年の秋に行われる党大会で定年に伴い交替する予定です。トップの習近平氏は、政治局員の汚職摘発等を通して自分の任命したい人を政治局の常務委員に任命しようとしています。ナンバー2は李克強氏のはずですが、ナンバー1とナンバー2で揉めており、最近彼のことを習氏が無視しているのではないかということで、色々と話をするときに李克強氏の額に汗が流れた等とテレビでは言っています。習近平氏が毛沢東のように権力を集中して、個人崇拝を進めようとしているという噂があります。来年には7人の内5人が交替しますが、この5人はどうなるのかということになっています。

経済は皆さんご存知のように、中国の実質GDP成長が少し減速しつつあります。去年は前年比で6.9%の増加で、今年の目標は6.5%です。2016年度第一四半期と第二四半期は6.7%成長しました。今年1年で6.6%位いくのではないかと言われていますが、日本企業の46%は2-3%に落ちるだろうと見ており、中国ではない国に早めに行っておいた方が、ダメージが少ないと考える企業も出てきています。実際のところ今後中国がどれ位成長するのか、これもとても心配です。中国は2001年にWTOに加盟しており、もう15年経っています。当初、15年経てば「非市場経済国」であるマーケットではないエコノミーの国からマーケット・エコノミーの国である「市場経済国」に変わると、中国はもちろんのこと欧米等もそう思っていたのですが、15年経っても中国はあまりマーケットとは言えないのではないかという疑惑が湧いてきました。特に世界の鉄鋼の半分位は中国で作っていますが、成長が止まり皆あまり使わない、つまり過剰供給となっています。中国は外に安い値段でダンピングしており、中国をマーケット・エコノミーと認めるとダンピングを阻止できなくなり、EU的に言えば最大21万人のEUの雇用が失われるということになります。ですから、このまま中国を「市場経済国」と認めるわけにはいかず、EUは圧倒的多数で中国を厳しい反ダンピング措置が可能な「非市場経済国」のままにすべきという決議を下しました。中国からすれば15年経ったら「市場経済国」にしてくれる約束だったのではないかと揉めている状況です。

金融市場的にも徐々に色々なことが自由化され、元が世界通貨になるという流れかと皆思っていました。銀行等も少し前までは預金金利の上限規制や貸出金利の下限規制といったものがありました。つまり、預金を取るときには何%以上金利を払ってはいけない、貸出金利をあまり低くしてはいけない等という規制を政府が出していました。これには、ある程度銀行に儲けさせないと不良債権処理出来なくなってしまうので、銀行の利鞘を確保すると言う意味があります。人民元を国際通貨にしようということで規制を撤廃しようということになり、預金金利の自由化を去年の10月に行いましたが、その前に2013年7月に貸出金利の下限規制も撤廃しました。しかし、2016年3月には1兆円を超える不良債権が出来てしまいました。さらに中国的に言えば、問題を抱えている業界でゾンビ企業を潰さなければならなくなり、不良債権処理をさせないといけないため、やはり銀行には儲けさせなければということになりました。撤廃したはずの貸出金利の下限規制や預金金利の上限規制を2016年6月に復活させました。このようなことから、金融市場も予定通りの自由化が全く進んでおらず、色々とトラブルが起こり、再び揺り戻しをしているという状況です。

それでは今日のまとめです。
中国はとにかく大きいもので、エネルギーや海運等も世界のトップの方になってきています。また国内のネット市場などでもAmazon やGoogleでなくアリババや百度という中国独自の仕組みが強くなってきています。ところが、それで徐々に大きくなったら世界のルールに則って、自由市場になるのかと思えば、WTOに15年前に加盟したにも関わらずEUが、やはり中国を市場経済国とは認定しないという決議を下したりしています。あまりこれまでの世界のルールを尊重する形で大きくなったという状況ではなく、揉めているのが現状です。中国は海でもその巨大化を図っていますが、ハーグ仲裁裁判所は南シナ海における「九段線」を認めず、これも揉めています。

分野: その他 |スピーカー: 村藤功

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