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マイナス金利について(2)

平松拓 企業財務管理、国際金融

16/08/31


 今回もマイナス金利政策についての話ですが、前回、マイナス金利政策の内容と、その効果として金利は下がっても、肝心の銀行融資にはそれ程繋がっていないことから、景気浮揚効果よりも弊害が大きいといった批判があることを紹介しました。今回は一般企業にとってのマイナス金利政策の影響を考えてみましょう。

金利低下効果
 マイナス金利政策によって市場金利が低下するため、資金調達を行う企業は従来以上に低い金利での調達ができるという恩恵に浴することができます。実際に社債を発行できる企業の中には、かなり長い期間の資金を1%以下の低い水準の固定金利でできたところもでてきています。ローンや社債の発行金利がマイナスにまで下がることは考えにくいという立場に立てば、資金調達を行う千載一遇のチャンスとなっている訳です。こうしたマイナス金利政策の恩恵は、積極的に投資を行う企業や、資金を扱うビジネスを行うために多額の資金を要するリース会社などで大きくなっています。

 他方で資金余剰の企業の場合、調達基調ではなくて債務の返済基調にある訳で、その点で恩恵が及びにくいということがあります。むしろ、余剰資金を運用するに際して、為替リスクや劣後リスクなど、追加的なリスクを取りながら運用をしなければ、従来のようなリターンは得られなくなっており、マイナスのインパクトに晒されているといえます。1980年代までは、「一般企業」全体として資金不足のセクターであったことから資金調達が活発でしたが、ここ20年以上状況が変化して、「一般企業」は資金余剰セクターとなったため、マイナス金利政策の恩恵を受けられる企業も減っています。企業が恩恵を受けるため投資を活発化させる、マイナス金利の狙いの一つだった訳ですが、残念ながらそうした変化が目立つ状況にはなっていません。

年金債務への影響
 もう一つ、企業への影響を考える場合に忘れてならないのは、企業が抱える年金債務の問題です。企業は、在籍する従業員への退職金や、退職済みの人も含めた積立者に対する年金を将来的に支払う責務を負っており、そのために積立金の運用を行っています。積立と言っても、将来に亘って支払う必要のある金額全てを現時点で積み立てる必要はなく、今後の運用益を勘案して、現時点ではどれだけの原資が必要かという金額を「年金債務」として計算し、それに応じた金額の積み立ての維持が期待されています。同時に、年金債務に対して現時点で積立額が足りているのか、どの程度不足しているのかを把握せねばなりませんが、上場企業の場合にはその内容を、決算書で明らかにすることが義務付けられています。

 積立済みの金額に運用利益が加わった金額が、将来の支払いに使える金額ということになりますので、運用利回りが高まればその分、将来多くの金額の支払いが可能になります。逆に、退職金や年金のように将来の支払い額が決まっている場合には、運用利回りではなくて割引率という概念を用いて、現在どれだけの原資が積み立てられているべきかという計算をすることになりますが、ここで、割引率が下がると、現時点での積立の必要額(年金債務)は増えることになり、その分、追加的な積立を行う必要が出てきます。先頃、金融機関を含む上場企業の年金債務額は前年度末比で5.1%増えて91兆円余りとなり、実際の企業の積立額との差、積み立て不足額は26兆円に拡大したという報道がありました。これが全てマイナス金利政策の影響ということでもありませんが、今後、割引率がさらに低下すると、年金債務額は増加して、企業は追加的な負担を迫られることから、財務的に圧迫される要因になり得ます。

 このように、マイナス金利政策が一般企業に及ぼす影響については、いくつかの側面があり、一様でもないことから、その功罪を論じることは簡単ではありません。そのためもあってか、政策の効果に対する日銀自身の評価と市中の評価には大きな差がある印象を受けます。直近は見送られましたが、今後、追加的な金融緩和の手段としてのマイナス金利政策の深化(マイナス幅の拡大)といったことも取りざたされている状況ですが、政策の功罪の見極めには、今少し時間が必要かもしれません。

まとめ:マイナス金利政策は、積極的な投資のために資金調達を行う企業に対してと、資金余剰気味の企業に対してとでは、業績面への影響が異なります。更に、政策が企業の積極投資に繋がっているか、更に、企業の年金債務への影響がそれにブレーキをかけないか、といった点まで見極めることが必要があり、現時点ではマイナス金利政策についての厳とした評価を下すことは難しいように思われます。

分野: ファイナンス 国際金融 |スピーカー: 平松拓

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