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リサーチデザイン②

寺﨑新一郎 経営学/マーケティング

16/07/13

前回のリサーチデザイン①では、リサーチデザインの定義と種類、調査目的や仮説検定の重要性などについてお話しました。今回のリサーチデザイン②では近年注目を集めているミックス法をご紹介したいと思います。

前回のおさらいですが、リサーチデザインとは調査における一連のプロセスを指します。調査にあたっては、まず目的が必要です。次に仮説があり、実際にデータを収集して分析をし、検証していきます。この一連の流れをリサーチデザインと言います。

今回はリサーチデザインの中で、近年注目されているミックス法をご紹介します。ミックス法は英語でmixed methodsと言い、量的データ(数理的データ)や質的データ(インタビューデータなどの文字データ)を、順にあるいは同時に収集および分析するリサーチデザインです。前回お話した検証的リサーチでは主に量的データを、探索的リサーチでは主に質的データを用いることが多いとお話をしたかと思います。ミックス法では量的データと質的データの両方を収集して分析します。元々は看護学で盛んに用いられてきましたが、最近は経営学でも活用されるようになってきました。

それでは、ミックス法の活用例を一つご紹介します。ゲッティング大学のFroeseらは海外駐在意欲にプラスの影響を与える要因についてドイツと韓国で調査を行いました。回帰分析の結果、韓国と異なりドイツでは英語力は海外駐在意欲にプラスの影響を及ぼさないことが明らかになりました。これは面白い結果ではないでしょうか。

全く英語が出来ない人が海外駐在を命じられたら、やはり気後れするというか、大丈夫なのだろうかと普通は思うはずです。韓国の場合はその通りの分析結果が得られましたが、ドイツの場合は違いました。英語が出来るか出来ないかはあまり関係がなかったということです。まず、この原因の一つとしてサンプリングに問題がありました。サンプルは両国(ドイツ・韓国)とも大学で収集されています。つまり、ある程度英語力あり、教育水準が高い人を対象にデータが収集されたのです。ドイツでは、大学生であれば英語が得意なのは当然であり、それが海外駐在意欲にプラスに働かなかったのです。

この調査では、量的データの分析で明らかになった結果について、その原因をドイツ人学生へのインタビューで探っています。ミックス法を用いたリサーチデザインでは、単に統計的検定における仮説が棄却されたという結果だけではなく、その原因をインタビューなどで得られた質的データと照らし合わせながら考察します(この手法は、ミックス法の中でも順次的説明的戦略に該当します)。つまり、統計的検定で浮かび上がった不可解な結果について、インタビュー調査等で真の理由を探っているのです。これはミックス法の有効な活用例といえます。
 
さらに、より簡単なミックス法の活用例として、アンケート用紙に自由回答欄を設けることが挙げられます。単に量的データを収集するのではなく、自由回答欄に何らかのコメントを書いてもらうことで、新しい視点や仮説の発見が期待できます。このように、難しく考えずに出来るところからミックス法を活用してみるということが大事だと思います。

インタビューで得られた質的データ(文字データ)は、自分の解釈を通して分析されるものであり、必ずしも客観的であるとはいえません。一方で、量的データはある程度客観的な分析結果が得られるものの、経営学ではいかなる場合でも成り立つ法則を導き出せるとは限りません。分析の対象となる、実際の経営環境は複雑で、物理学や数学などの自然科学のように、普遍の法則が得られるわけではないのです。物理学であれば、質量と加速度をかければ力が導き出せます。しかし、経営学の場合は必ずしもそのような公式が適用出来るとは限りません。ゆえに、不可解な結果が得られた場合は、インタビューデータや質的データを収集することで、より掘り下げてモデルや仮説を組み直すことが重要です。ミックス法は万能ではありませんが、量的データと質データの両方を分析に用いることで、発見事実の精度向上や新たな研究領域に発展させるのに有効な手法になります。

それでは今日のまとめです。
今回はリサーチデザイン②としてミックス法をご紹介しました。ミックス法とは量的データや質的データを順番、あるいは同時に収集して分析をするリサーチデザインになります。簡単なミックス法の活用例として、アンケートの自由回答欄の設置を提案しました。より多くの方にミックス法をご活用頂ければと思います。

分野: ビジネス統計 |スピーカー: 寺﨑新一郎

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