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キーワードで理解するイノベーション・マネジメント (21) マトリックス組織

永田晃也 技術経営、科学技術政策

16/06/21

今回のまとめ: マトリックス組織を構成する際、機能部門とプロジェクト・チームのどちらの権限を重視するべきかは、技術的な条件によって異なります。


 今回は、イノベーションを担う組織の構造に関するキーワードとして「マトリックス組織」を取り上げます。
 マトリックスという語には、「行列」という意味があり、文字どおり行と列を持つ網の目状の構造を表すときに、しばしば使われています。一般的にマトリックス組織という場合に縦方向に描かれる「列」は、企業の様々な機能部門--例えば研究開発部門、製造部門、マーケティング部門などを表し、これらを横断する「行」は、それぞれの機能部門から要員を集めて組織されるプロジェクトを表します。複数の機能部門を持つ企業において、新製品開発などを目的とするプロジェクト・チームが編成される場合、その企業の組織はこのようなマトリックス型の構造を持つことになります。

 マトリックス組織の特長は、職能別組織と複数事業部制組織の利点を兼ね備えている点にあります。
 ここでいう職能別組織とは、研究開発部門、製造部門、マーケティング部門といった機能部門が、直接、トップマネジメントによって統括されている組織です。こういう組織では、それぞれの職能が単一の部門に集まっているので、職能の専門性を高めることができますし、また部門の規模が大きいことに伴う経済性を追求できるという利点があります。しかし、この組織は構造が単純なので、意思決定が速く行われるかのように見えるのですが、最終的な意思決定の権限がトップマネジメントに集中しているため、むしろ意思決定に遅れが生じやすいと言われています。また、多様な製品・サービスごとの条件に適応することができないという欠点があります。
 一方、複数事業部制組織は、多くの大企業に採用されている組織構造で、多様な製品・サービスに対応する複数の事業部が設置され、事業部ごとに製造部門やマーケティング部門といった機能部門が配置されています。この場合、製品・サービスに多様性を持たせることができますし、多様な事業の業績を、事業部という組織単位で評価することが可能になります。しかし、事業部同士は経営資源を取り合う関係に立つため、セクショナリズムに陥りやすくなりますし、事業部ごとに類似の機能を担う経営資源を重複して保有するような非効率が生じることにもなります。
 マトリックス組織は、共通の資源を機能別に集中させるとともに、プロジェクトによって多様な製品・サービスごとの資源展開が可能になるという意味で、これら組織構造の利点を兼ね備えていると言われるわけです。
 ただ、マトリックス組織では、機能部門とプロジェクトに権限が二重化することに伴う問題が生じます。プロジェクト・チームに配置されたメンバーは、元の所属組織である機能部門と、プロジェクト・チームという2つの指揮系統の下に置かれることになるわけです。このとき混乱が生じないようにするためには、どちらの権限を優先させるのかに関するルールを明確にしておく必要があります。

 この点については、多くの研究が行われてきました。例えば、カッツとアレンという2人の研究者は、予算や参加メンバーなどに関する意思決定権限がプロジェクト・マネジャーに集中し、技術的な詳細に関する権限は機能部門に集中しているときに、プロジェクトのパフォーマンスが最も高くなるという分析結果を、1985年の論文の中で発表しています。
 また、アレンは翌年に発表した論文の中では、権限の配置構造のあり方を、技術的な条件との関係において論じています。それによると、技術変化が早いときには、それに遅れをとることがないように、要素技術の開発に当たる機能部門を重視する組織の方が望ましいけれども、機能部門が開発する部品相互の相互依存関係が強い場合には、その調整を行うプロジェクトの権限を重視した組織の方が望ましいというのです。つまり、機能部門とプロジェクト・チームのどちらの権限を重視するべきかは、技術的な条件によって異なるわけです。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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