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黙っている人のことを考える

塚崎公義 経済予測、経済事情、日本経済、経済学

16/05/24

『なんだ、そうなのか!経済入門』という本のエッセンスを紹介していますが、今日は「黙っている人のことを考えよう」というお話です。

まず考えたいのが、「満足をしている人は黙っている」ということです。

たとえば、私が大教室で授業をしているとします。一部の学生から「寒いから暖房をつけてください」と言われたとします。その時、私がすぐに暖房をつけると、残りの学生から「暑いから暖房を消して下さい」と言われることがあります。寒いから不満に思っている学生は声を上げるけれど、今が調度いいと思っている学生はわざわざ「今が調度いいですから、暖房をつけたり、冷房をつけたりしないでください」と言いには来ません。黙っています。つまり、文句を言ってきた学生がいたからといって、すぐにその言い分をきくと、かえって大勢の人たちから文句がくる、という場合があるわけです。

また、かつてこういうことがありました。ある政治家が選挙区のお年寄りから「金利が低くて、我々金利生活者が困っているから、金利を上げてほしい」と言う陳情を受けたそうです。この政治家は「こういう陳情を受けた。確かに金利生活者が可愛そうだから、金利をもっと上げなくては」という発言をしました。
そこで何が起こったかというと、その選挙区の中小企業の人たちが「冗談じゃない。金利を上げてもらったら俺たちが困る」と怒鳴りこんできたそうです。要するに、金利が低くて困っている人たちは「金利を上げてください」という陳情をしますが、金利が低いおかげで助かっている中小企業の人たちは「金利が低いおかげで我々は助かっていますから、是非、金利を上げないで下さい」というふうには、一々陳情に来ないということです。

TPPに関してもこのことは言えるかもしれません。「農業の輸入を自由化しよう」というと、反対する人がもちろんいますが、「輸入の自由化してくれたら嬉しいな」と思っている人は、わざわざ「輸入の自由化をしてください」とは言いません。反対する人の声が大きく、賛成する人の声が小さいという状況のなかで、数えてみれば意外と賛成している人が多いのかもしれません。

さて、もう一つ気をつけるべきことがあります。それは「成功した人しか残っていない」という場合があることです。
これまでの事例は、教室の中にいる人の中で、満足している人と不満な人といるという話でしたが、ここからは「負けた人はその場からいなくなる」という話です。

たとえば、こういうことです。サッカーの選手やプロ野球選手、芸能人といった華やかな職業で活躍している人たちがいます。結構いい収入だということを聞いて、「じゃあ僕もサッカー選手になればお金持ちになれるのかな」と考える人がいますが、それは違うという話です。
現在、サッカー選手をしている人たちの給料は確かに高いでしょう。しかし、サッカー選手になろうとしてなれなかった人で、普通のサラリーマンよりも給料の低い仕事で我慢している人はおそらくたくさんいます。プロのスポーツ選手を目指した人のなかで成功した人は給料が高いけれど、失敗した人はおそらく普通のサラリーマンより生活が苦しいと思うので、平均すると収入はどちらが高いか分かりません。ところが、失敗した人というのはなかなか我々の眼に触れないので、「サッカー選手を目指せばお金持ちになれる」といった誤解をしてしまいがちなのです。

また、会社を作って社長になり、大金持ちになった人の話もよく耳にしますが、これに関しても同じことが言えます。実際は、会社を作って失敗し、破産してしまった人も大勢いますが、破産した人はもうこの場にいないので、私たちの耳には成功してお金持ちになった人の話ばかりが入ってきます。したがって、「何か会社を作ればお金持ちになれる」といった誤解をしないように気をつけなければいけません。

また、こういうケースも考えられます。自社製品について、「お宅の製品買ったけど壊れたぞ」というクレームがきたとします。そうするとメーカーは「もっと頑丈な製品を作ろう」と頑張るわけです。しかし、頑丈な製品を作ろうとすると、製品が重たくなったり、デザインが悪くなったりします。一方、「お宅の会社の製品はデザインが悪かったり重かったりしたから買わなかったわよ」というお客さんはわざわざクレームをしてこないでしょう。そこで、クレームをしてきたお客さんの言うことだけを聞いてどんどん壊れにくくすると、重たくてデザインが悪い製品ができて、ますます売れなくなってしまうという状況が起こりえます。

上と同じ話としては、こういう例もあります。日本に来た外国人観光客に「どうして日本に来たのですか。日本のどこが好きですか」と聞くことがあります。私たちはつい、こういう尋ね方をしがちなのですが、本当に大事なのは日本に来なかった観光客に「どうして日本を選んでくれなかったんですか。どこをどうすれば今度は日本に来てくれますか」と聞くことなのです。

これまでの例で見てきたように、「聞こえてくる情報だけでなく、聞こえてこない情報はいったい何か」ということに思いをはせることが大事です。

では今日のまとめです。
誰かが何かを発言していたら、その話を聞くだけではなく、「発言していない人も同じ考えなのだろうか」と考えてみることが大切です。発言していない人の存在に気付かない場合も多いので気をつけましょう。

分野: |スピーカー: 塚崎公義

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