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超高齢化社会を支える新たなビジネスモデル(その2)

高田 仁 産学連携マネジメント、技術移転、技術経営(MOT)、アントレプレナーシップ

16/04/07

・前回は、北九州市に本社を置くサンキュードラッグが、地域に高密度出店し「かかりつけ店舗」となることによって、顧客の来店頻度や「ついで買い」を誘発し、店舗あたりの収益性を高めていることを話した。今回は、同社がなぜそのような事業展開ができるのかを深掘りする。

・顧客に身近な「かかりつけ店舗」となるためのカギを握るのは、ID-POSシステム(顧客情報と売上情報がリンクしたデータ管理システム)だ。同社は、ID-POSを活用して深いレベルの顧客データを蓄積し(=顧客理解)、それを活かして顧客自身が気づいていないパーソナルケアのサービスを、利便性の高い最寄り店舗で提供することを目指している。これを、平野社長は「循環的相互不可分の関係」と呼んでいる。
・つまり、付き合えば付き合うほど関係性が深まり、顧客に対してより高い価値を提供できる「かかりつけ店舗」が地域に高密度で存在すると、高齢化が進む地域社会を支えるインフラとして機能できる。そこで、日頃から店舗と顧客が信頼関係を築いておけば、例えば、顧客が要介護状態になったときに、必需品の配達など、居宅介護の支援もスムーズに行うことが出来る。問題が起きてから慌てて対応するのではなく、日頃の付き合いの延長で、必要なときに自然にサービスを受けられる状態は、超高齢化社会のサービスで不可欠な「安心」の提供を意味する。

・では同社は、このビジネスモデルで如何にして収益性を高めるのだろうか?そもそも、ドラッグストアの取扱商品は、全般的に単価が低いものが多い。
・そこで、平野社長が一貫して強調するのは、「データ」の価値や役割だ。単価が低いコモディティ商品が多くを占めるドラッグストアで、店舗収益を高めるには、顧客の来店頻度やリピート購買率を上げることが重要になる。そのため同社では、次の3段階で顧客にアプローチしているという。
・フェーズ1=顧客を知る(購買行動の把握や未購買者の発掘)
・フェーズ2=商品価値の定義(商品固有の価値のみならず、顧客にとっての複数価値の明確化)
・フェーズ3=正しいメッセージの伝達(ターゲットに合った価値の伝達、その手段の選択)
・その結果、例えば「舌磨きタブレット」という商品の場合、当初メーカーがターゲット層と位置づけていた20代女性には競合商品が多く、結果的にリピート率が低かったのに対し、同社の購買データの分析によって高齢男性でリピート率が高いことを見出し、この層に対して他の口腔ケア商品を併せて薦めることで、両方の製品の大幅売上増を実現している。また、店頭の商品棚に貼る"ポップ"の内容を変えて、どちらがより効果的に売上増に結びつくかを測るA/Bテストも、ID-POSを活用すると簡単に実施することが出来る。

・さらに同社では、この顧客情報管理システムを、地域内の様々な業種の企業に開放し、地域共通プラットフォーム化することによって、顧客共有と相互送客を高めようとしている。具体的には、「ドラポン!」というウェブサイトを構築し、様々な業種の企業がこのサイトを中心に、ポイント保有客に対してサービス情報を発信できる仕組みを整えている。

・超高齢化社会・人口減少社会は、消費のパイ(市場規模)が縮小するのが常識と捉えられるが、同社のプラットフォームを地域内企業が様々に活用すると、顧客自身も気づいていなかった商品価値の伝達〜購買(ついで買い)〜リピート・・という市場規模拡大の絵姿も見えてくる。
・さらには、身近な「かかりつけ店舗」と顧客情報管理システムを活用すると、顧客の健康管理(日常的な血圧や体重、歩数計など)とそのデータを活用した予防医療がより効果的に行うこともできる。そこで蓄積されたデータを活用すると、医療・介護分野において、調剤薬局やそこに常駐する薬剤師の役割も多様化し、付加価値の源泉となる可能性がある。そこには、超高齢化社会における高齢者の日常生活や健康を支える新しいビジネスモデルが垣間見える。

・以上、サンキュードラッグの事業は、特定地域に高密度で出店し、顧客との接点を増やしながら信頼関係を強めるというアナログな側面と、顧客の購買行動や履歴などのデータを詳細に把握し、顧客への価値提案(バリュー・プロポジション)の仮説検証サイクルのスピードと精度を上げるというデジタルな側面の両方をバランスよく兼ね備えている点が特徴といえる。

・超高齢化社会では、一人でも多くの高齢者が、地域のなかで健康で自立した生活をおくることが重要となる。そして、地域のドラッグストアや調剤薬局は、"健康"と"利便性"という側面から高齢者の生活を支える機能を持続的に担う。同社の戦略と数々の取り組みは、人口減少・超高齢化に向かう我が国の地域社会を支える有望なビジネスモデルを提示しているのではないだろうか。

【今回のまとめ】
・サンキュードラッグの事業は、高密度出店で顧客との接点を増やし、顧客と信頼関係を強めるというアナログな側面と、ID-POSによって購買データを詳細に把握し、顧客への価値提案(バリュー・プロポジション)の仮説検証サイクルのスピードと精度を上げるというデジタルな側面の両方をバランスよく兼ね備えている。

分野: |スピーカー: 高田 仁

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