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キーワードで理解するイノベーション・マネジメント(18)弱い紐帯の強さ

永田晃也 技術経営、科学技術政策

16/04/14

今回のまとめ:画期的な情報やアイデアは、しばしば弱い結びつきのネットワークからもたらされます。


 今回は、「弱い紐帯の強さ」というキーワードを取り上げます。これは社会ネットワークに関する研究分野でグラノヴェッターという研究者によって提唱された概念で、ひもにおびと書く「紐帯」の原語はtie、つまり結びつきという意味です。
 グラノヴェッターは、1973年に発表した論文の中で、若者の就職活動に関する分析を行い、その結果、就職先に関する重要な情報が、近親者や親しい友人のような強い結びつきのある人たちよりも、ふだんはあまり会わない弱い結びつきの知人などから得られていることを示しました。弱い紐帯の強さとは、このような弱い結びつきが、むしろ高い価値をもたらす強みを発揮することを意味しています。
 このようなことが起こる理由について、グラノヴェッターは、弱い紐帯のネットワークの方が情報伝達において効率的であることなどを挙げているのですが、彼自身が発見した事実を説明する理論としては説得的ではありません。
 しかし、弱いつながりを多く持っている人の方が、そのようなつながりが少ない人よりも、価値ある情報を思いがけず獲得できる機会を得やすいということは、効率性などの概念を持ち出すまでもなく、直観的に理解できるでしょう。
 そして、それはイノベーション・マネジメントにも、分かりやすい示唆を提供することになります。つまり、企業にとって画期的なイノベーションの源泉となる情報やアイデアは、社外との弱いつながりを数多く形成しておくことで得やすくなるというわけです。

 ところが、ネットワーク分析の領域では、「強いネットワークの強さ」とも呼ばれる真逆の事実発見も行われているのです。それらの研究では、人間関係が緊密で小規模なネットワークの方が、新しいアイデアを流通させる上で効率的であることが主張されています。ここでも情報伝達の効率性という概念が持ち出されています。

 効率性という尺度だけでは一見矛盾してみえる2つの事実発見は、ネットワークによってもたらされる効果が異なるという視点に立てば、整合的に理解できます。広い範囲に亘る弱いネットワークによってもたらされる利点は、新しい情報やアイデアの獲得であり、凝集性の高いネットワークによってもたらされる利点は、ネットワーク内部での情報やアイデアの共有なのです。前者は、ラジカル(画期的)なイノベーションを促し、後者はインクリメンタル(漸進的)なイノベーションを促す効果を持つとする議論もあります。

 イノベーションを追求する企業にとっては、新しい情報やアイデアの獲得も、密接な関係にあるアクター間での情報やアイデアの共有も、ともに重要であることは言うまでもありません。したがって、弱い紐帯と強い紐帯の形成を同時追求することが課題になると言ってよいでしょう。問題は、両者がトレードオフ(相反する)関係にあるのか、またトレードオフ関係にある場合には、どのようにネットワークの最適な強度を達成できるのかといった点に残されていますが、これらについては、あらためて論じてみたいと思います。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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