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合成の誤謬

塚崎公義 経済予測、経済事情、日本経済、経済学

16/03/16

「なんだ、そうなのか、経済入門」という本のエッセンスを紹介していますが、今日はみんなが頑張るとみんなが酷い目に遭うというお話です。

例えば満員の劇場が火事になった時、それぞれのお客さんにとってベストなのは非常口に向かって走ることですよね。しかし、全てのお客さんが一斉に非常口に向かって走っていったとしたらどうなるでしょうか。大変な事になりますよね。

こうした事を難しい言葉ですが、「合成の誤謬」と呼んでいます。
難しい言葉はともかくとして、「みんなが頑張るとみんなが酷い目に遭う」ということは割と色んな所で起きています。

経済の世界で考えてみましょう。例えば株価が下がるという噂が流れた場合、みんなにとって正しいのは急いで株を売ることですよね。しかし、株を持っている全ての人が急いで株を売ろうとすると、株価がどんどん下がっていき誰も買ってくれる人がいなくて株を持っている人全員が損をします。この場合は救いがあり、株価がどんどん下がっていくと流石にもう今なら買い時だろうと買う人が段々増えてくるため、どこまでも下がっていくということはなく、必ずどこかでは止まります。ただ、銀行が破産するという噂が流れると預金している人はみんな一斉に銀行から貯金を卸しに行きます。この場合は途中で止まることはありません。多くの人が預金を卸しに行けばいくほど、益々あの銀行は金庫が空っぽになりそうだという噂が広まるばかりですから、途中で止まるどころかどんどん進みます。
こうした場合のために、「預金保険」という制度があります。これは銀行が破産しても1,000万円までの預金は政府が代わりに払ってくれるということが法律で定められています。これにより、みんなが必ずしも銀行に走っていかなくても良いことになり、銀行の取り付け騒ぎがあまり起きないと言われています。

これ以外にも色々ありまして、日本中の野菜を作っているすべての農家の人が頑張って野菜を作ると普段よりもたくさんの野菜ができますが、そんなに急に食べる人が増えるわけではないため、野菜の値段がうんと下がって野菜農家がかえって貧乏になるということもあります。そのため、豊作というのはたくさん採れれば採れるだけ良いかというと、そうではないということです。豊作貧乏という言葉があるように、たくさん採れるとかえって貧乏になるということがあるわけです。

このように野菜が暴落してしまうことに対しての救済策というのは難しいのが現状です。
預金保険のように政府が下がった野菜を買ってくれるということであれば良いのですが、なかなかそうもいきません。ただ、1年そういう事があると来年は白菜を作るのをやめて別の物を作ろうという農家が増えてくるため、毎年毎年農家が頑張って白菜を沢山作って、白菜が毎年安くしか売れなくてということはありません。

それからもう1つ。ここから先は人によって意見が分かれるところですが、私はバブルが崩壊した後のこの長期不況も合成の誤謬だという風に考えています。

日本人は勤勉で倹約家ですよね。要するによく働いて贅沢をしないで倹約をする。これ自体はとても良いことです。もし江戸時代に日本人がそんなに勤勉でなかったらお米がそんなに採れなかったでしょうし、日本人が倹約しなかったらちょっとしか採れていないお米をみんながばくばく食べていたら、飢え死にする人がたくさん出たでしょう。高度成長期には日本人がたくさん働いてたくさんの物を作り、あまり物を使わなかったため、工場の機械を作ろうかということが出来たわけです。もし日本人が一生懸命働かずに贅沢をしていたら工場の機械を作ろうという話にならないですよね。お金の面でも、日本人が沢山働いてたくさん貯金をして、その貯金が銀行を通じて設備を作ろうという会社に貸し出されて、会社が設備を作ることが出来たわけです。日本人があまり働かないで給料が少ないのにいっぱいお金を使って貯金をしなかったら、銀行にお金が集まってきませんから、そうすると銀行は貸し出しが出来なくて工場を建てようという会社が、工場が建てられないということになっていたはずなのです。

このように日本人が真面目で倹約家だったからこそ良いことがあったわけです。
でもバブルが崩壊した後はそうではありませんでした。

みんなが真面目に働くと物がたくさん出来ますが、みんなが倹約をすると物をあまり買いません。そうすると日本の物は売れ残りますよね。売れ残ったものはしょうがないので外国に買ってもらうしかないので、輸出をするわけですけれども、輸出によって得た外貨(ドル)をどんどん銀行に売りに行くとドルが安くなり、円高になり輸出しても儲からなくなります。そうすると日本の会社は物を作らなくなります。それでどうなるかというと、日本の会社は人を雇わなくなり失業者が増えます。政府が失業者を雇って橋や道路を作る、公共投資となるわけですね。そのためにお金が必要になります。そのため政府が借金をして公共投資をやるわけです。つまり、日本の景気が悪かったのも日本の政府の財政赤字がこんなに膨らんだのも、日本人が勤勉で倹約家であったから起きている合成の誤謬だと私は考えています。
この部分に様々な考え方があり議論の余地がありますが、私はそう思っていますということです。

では、今日のまとめです。

みんなが頑張るとみんなが酷い目に遭う事があります。それを合成の誤謬と呼びます。株価の暴落、銀行の取付騒ぎなどが典型的ですが、バブル崩壊後の長期不況も日本人が真面目に働いて倹約をした結果だと私は考えています。

分野: 景気予測 |スピーカー: 塚崎公義

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