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キーワードで理解するイノベーション・マネジメント(7)専有可能性

永田晃也 技術経営、科学技術政策

15/10/05


今回は「専有可能性」というキーワードについて解説します。
これはappropriabilityという英語の日本語訳ですが、イノベーション研究者たちによる造語ですから、かなり収録語数の多い英語の辞書にも掲載されていないようです。
この言葉の意味を、定義的に言うと「イノベーションを実施した企業が、その利益を自ら回収できる程度」ということになります。これを確保することがイノベーション・マネジメントにおいて大変重要な課題になるのですが、それは、そもそもイノベーションが生み出す利益を、イノベーションを実施した企業が専有することは困難だからです。
専有可能性の確保を困難にする要因はいくつかありますが、その1つは、以前、「公共財」というキーワードを取り上げたときにもお話したように、イノベーションの核となる新しい知識が、それを生み出すためには巨額の費用を必要とする一方で、容易に第三者に伝わり、模倣されやすい性格を持つことにあります。
また、イノベーションは新しい知識だけでは実施できず、市場で利益に結び付ける過程では生産設備や販売網などの多様な補完的資産を必要とするのですが、イノベーションを実施しようとする企業がそれらの補完的資産を保有していない場合には、その機能を何らかの方法で調達しなければなりません。ところが、それらの補完的資産が特殊な性質を持っており、例えば特定の供給業者からしか調達できない場合は、競争的な条件での取引ができないためコストが高くなり、結果的にイノベーションから得られる利益の一部は供給業者に流出することになります。

イノベーションから得られる利益は、次のイノベーションを準備するための研究開発に原資を提供するものです。したがって、イノベーションの模倣が容易で、企業が専有可能性を十分に確保することが困難な状況であれば、企業は最早、自らイノベーションを実施するための研究開発に取り組もうとせず、他社のイノベーションを模倣しようとする戦略をとることになるでしょう。このような状況は産業全体のイノベーションを不活発にしてしまうかも知れません。このため、専有可能性を確保することは、イノベーション・マネジメントにとって最も重要な課題の1つとなるのです。

では、企業は有可能性を確保するために、どうしたら良いのでしょうか。
まず、新しい知識について特許を取得することによって模倣を防ぐ方法が考えられるでしょう。ただ、特許を取得するためには、技術情報を完全に開示しなければなりませんから、権利に抵触しない類似の技術を競合他社が迂回発明することを促してしまうかも知れません。このため、敢えて特許を取得せず、コアとなる技術を企業機密にするという方法も考えられます。
企業がどのような方法で専有可能性を確保しようとしているのかということは、80年代の半ばにイエール大学の研究者らが行った調査を皮切りに、実態を明らかにするための調査が繰り返し行われてきました。その結果、得られた重要な事実発見の1つは、特許の取得などではイノベーションの模倣を防ぐ上で限界があるため、いち早く新製品などを市場に投入し、競合他社がキャッチアップしてくるまでのリードタイムを長くとって利益を上げることや、これに関連して優れた補完的資産を確保することなどを、企業は重視しているということだったのです。

今回のまとめ: 専有可能性とは、イノベーションを実施した企業が、その利益を自ら回収できる程度を言います。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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