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外貨売買について②

平松拓 企業財務管理、国際金融

15/09/22

「外貨の売買」その2、ファンダメンタルズについて

前回、「外貨の売買」の話の中で触れましたように、外貨預金など外貨での資産運用も身近なものになってきている訳ですけれども、その場合、運用成果に大きな影響を及ぼすのが為替相場です。為替相場の変動を論じる場合、様々な角度から分析が可能なわけですけれども、経済ばかりではなく政治的な要素を含めたファンダメンタルズ、基礎的な条件といいますけれども、この観点から分析することが基本になります。そこで、今回改めてこのファンダメンタルズによる分析をおさえておきたいと思います。

このファンダメンタルズには通常以下のような項目が含まれると考えられます。
1つ目は「内外の金利差」です。自国通貨よりも外国通貨の金利の方が高ければ、将来その外国通貨との相場が変わらなかったとすれば、外貨で運用しておいた方が金利差分有利になります。そのため、金利が上昇すると、その通貨で運用したいという投資家が増加し、その通貨の相場が上昇します。バーナンキ・ショックと言われる現象が生じたように、一昨年来、アメリカの金利引き上げの見通しを巡り、米ドルの為替相場が神経質な動きを見せているのはこの影響です。
2つ目は「インフレ率の差」です。インフレ率の高い国の通貨で運用していると、実際には運用成果の額面金額の割に小さい価値にしかなりません。そこで、金利が変わらなければ、低インフレ国通貨で運用しようという投資家が増加し、低インフレ国通貨が買われることになります。3年前までの日本の円高の背景に、日本のデフレがあったと言われています。
3つ目が「景気動向」です。端的に言うと、GDP成長率の高い国では一般に投資収益率の期待も高まります。例えば企業活動で儲かるチャンスが増えるため、その国の企業の株式を購入するために海外からお金が集まります。現在も世界経済が全体的にスローダウンする中でアメリカ経済の回復に期待が高まっていますが、これもドル高の一因となっていると言えます。
4つ目が「国際収支」です。特に「経常収支」や「直接投資収支」がしばしば採り上げられますが、経常収支が大幅な黒字である場合や、直接投資が多額に流入している国の通貨は、海外での決済或いは投資家により決済のために購入されるため、相場が上昇する傾向があります。日本の場合、貿易収支は赤字が定着しつつあるかに見えますが、海外資産からの純所得がそれを上回っているために経常収支はほぼ安定して黒字でした。このことも3年程前迄の日本の円高の一つの背景であったと考えられます。一方で、日本の場合、直接投資については圧倒的に流出超過のため、こちらの方は円安要因として働いているということが言えます。
5つ目が「政治的な安定性」、或いは「地政学的なリスク」です。今や高収益を求めて世界中を活発に移動する国際投資資金の規模は極めて巨額にのぼっていますけれど、政治的な安定性を欠く国では経済を改善するための政策がとられにくいことから流入が細り、逆に流出が増加し易くなります。日本の場合、他国の政治的なリスクや遠隔地の地政学的なリスクで円高に振れることが多く、こうしたリスクとは無縁のように思われるかもしれませんが、日本は巨額の財政赤字を計上し続けていることから、内外の投資家が日本の財政破綻のリスクを強く想起するようになれば、資金の流入が阻まれ、逆に資金の流出を招く、今後そういった事態が発生する可能性も否定できません。
これまでファンダメンタルズの各要素をご紹介してきましたが、実際のところは、これらファンダメンタルズの各要素の現在の状況ばかりではなくて、それらが今後どう変化するか、また、為替相場そのものがどう変化するか、といった見通しによっても資金の流れは左右されます。その結果、実際の為替相場の動きはファンダメンタルズからは大きく乖離してしまうこともあります。従ってファンダメンタルズさえ見ておけば、為替変動の全てが理解できるわけではありませんが、外貨で資産運用を考えるような場合には最低限理解しておきたいポイントではあります。

ところでファンダメンタルズを見る場合、実際に取引する二通貨それぞれの国のファンダメンタルズを押さえる必要があるのは言うまでもないですが、そればかりではなく、それらの通貨に影響を及ぼしそうな第三の通貨について、その国のファンダメンタルズも合わせて見ておいた方が良い場合があります。例えば、最近では「ギリシャ危機」を巡る、ユーロと円の関係が挙げられます。ギリシャ危機が深刻化すると、ユーロへの投資が避けられるということがありますが、その場合、短期的に経済が安定していると考えらえる円に資金が向かいがちになり、その結果、対ドルでも円が買われて円高になるといった状況が見られました。もっとも、こうした通貨間の関係は、その時点で投資家がどういう連想をするかに関わっているため、一概には言えないという難しさがあります。

今日のまとめです。
外貨での資産運用などもインターネットバンキングのおかげで身近で安価なものになっていますけれども、その運用に大きな影響を及ぼす為替相場の変動については、少なくとも関係する諸通貨のファンダメンタルズを理解しておくことが必要と言えるかと思います。

分野: 国際経営 |スピーカー: 平松拓

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