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キーワードで理解するイノベーション・マネジメント(4) シュムペーター仮説

永田晃也 技術経営、科学技術政策

15/07/17


 イノベーションを経済発展の原動力として捉えた経済学者として、以前J.A.シュムペーターに触れたことがあります。
 シュムペーターは、晩年近くになって著した『資本主義・社会主義・民主主義』という本の中で、独占的な市場においてイノベーションが活発に行われ、また大企業がイノベーションの主要な担い手になるという意味のことを書いています。シュムペーター仮説とは、これら2つの仮説のセットからなるもので、その成否をめぐって、多くの議論を引き起こしてきました。

 まず、なぜ独占的な市場においてイノベーションが活発に行われると言えるのか、考えてみましょう。むしろ多くの企業が熾烈に競争している市場の方が、イノベーションは活発になるのではないかとも思われます。しかし、そういう市場では、自社がいち早くイノベーションを実現できたとしても、多くの競合によって模倣される可能性があるため、イノベーションから十分な利益を回収できないかも知れません。事前に市場支配力があるからこそ、独占的な企業ではイノベーションを実現した場合の期待利益が高くなり、イノベーションが促進されるというわけです。また、高い市場支配力によって確保される利益は、新たな研究開発をファイナンスするための資金源になります。
 一方、これに対して、十分な市場支配力を持った企業には、もはやイノベーションを行おうとするインセンティブが働かなくなるのではないかという反論が提起されています。
 この点をめぐる実証研究は、独占の程度を図る市場集中度と、イノベーションの間に、しばしば逆U字型の関係を見出してきました。これは、市場支配力の高まりは、ある程度までイノベーションを促進するけれども、高くなり過ぎるとイノベーションのインセンティブを損なうということを示唆しています。

 次に、相対的に規模の大きい企業が、イノベーションの主要な担い手となると考えられる論拠としては、以下のような点が指摘されてきました。まず、企業規模の大きい方が、イノベーションに必要な内部資金を豊富に利用できるという点です。これは、生産量が大きいほど、固定費としての研究開発費が大きくなるという側面からも論じられてきました。また、研究開発にも規模の経済が存在し、研究開発費の増大に伴って知的生産性が高まるという議論もあります。さらに、大企業はイノベーションに要する生産設備や販売網などの補完的資産を豊富に保有しているという点や、大企業には多様な事業部があるため、予想しなかった製品や製法が生み出されても、自社で利用することができるといった点が指摘されてきました。
 一方、この仮説にも対立する見解があります。企業規模が大きくなるほど、研究開発を効率的にコントロールすることが難しくなる。また、個々の研究者の成果が埋没して、インセンティブが損なわれるといった意見などです。

 こうしたシュムペーター仮説をめぐる議論は、単に学問的な論争に終わるものではなく、実務的・政策的に重要な論点を含んでいます。イノベーションを実現する上で最適な市場集中度や企業規模が存在するのかどうかは、イノベーション・マネジメントや競争政策上の関心になるからです。
 ただ、近年では、市場集中度や企業規模がどのようにイノベーションに影響を及ぼすのかについて、更に進んだ知見が得られていますので、いつかその点についてもお話したいと思います。

今回のまとめ:独占的な大企業がイノベーションの主要な担い手になるというシュムペーター仮説の当否は、実務的、政策的に重要な論点を含んでいます。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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