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経常収支

塚崎公義 経済予測、経済事情、日本経済、経済学

15/04/07

まとめ: アベノミクスによって円安ドル高になりましたが、輸出は増えず輸入は減らず、経常収支の黒字はむしろ減りました。しかし、最近になってようやく輸出が増え始めたので、今後については経常収支が赤字になることなく、黒字幅が少しずつ拡大してゆくと思われます。


今回は、経常収支の話です。アベノミクスにより、大幅なドル高円安となりましたが、輸出は増えず、輸入は減らず、経常収支の黒字幅はむしろ減少しました。
経常収支の黒字額は、アベノミクスの前年には、すでにピーク時の5分の1にまで減っていましたが、その後の2年間で更に半分になってしまったのです。
経常収支というのは、貿易収支とサービス収支と第一次所得収支と第二次所得収支を合計したものです。貿易収支というのは、輸出から輸入を差し引いた金額です。サービス収支というのは、外国人旅行客が日本で使った金額から海外旅行で日本人が使った金額を引いた金額だと考えて下さい。実際にはそれ以外にも外国の映画館が日本映画を上映して日本に対価を支払えば、それも日本のサービス収支の黒字になったりします。
貿易収支とサービス収支は似ています。日本人が働いて外国人が楽しんで、その対価を日本が受け取ると、貿易収支やサービス収支は黒字になりますが、外国人が働いて日本人が楽しんでその対価を外国に支払えば、日本の貿易収支やサービス収支は赤字になります。
日本は、貿易収支もサービス収支も赤字になっています。リーマン・ショックまでは、日本の貿易収支は大幅な黒字でした。しかし、その後は大幅な円高になり、更には東日本大震災の後でエネルギーの輸入が増えた事もあり、貿易収支は赤字となりました。
問題は、その後のアベノミクスで大幅なドル高円安になったために、貿易赤字が拡大してしまった事です。輸出契約の中には、円建てで価格が決まっているものがあります。当然ですが、これはドル高円安になっても価格は変わりません。一方、輸入の方は、ほとんどがドル建ての契約なので、ドル高円安になると、貿易収支を計算する際には輸入金額が増えた計算になります。したがって、ドル高円安になると、貿易収支の赤字は増えるのです。
通常であれば、貿易収支の赤字は一時的に増えた後、減っていきます。ドル高円安になると、外国製品と比べた日本製品の競争力が強くなりますから、日本の輸出数量が増え、輸入数量が減って行くからです。価格の変化は短期間で起こりますが、数量の変化には時間がかかるので、一時的に増えた赤字がその後少しずつ減っていくという事になるのです。このため、貿易収支をグラフに描くとローマ字のJの字のように見えることから、これをJカーブ効果と読んでいます。
今回は、いつも以上に数量の変化に時間がかかっているため、アベノミクスから2年経っても輸出数量があまり増えず、貿易収支の赤字が増えたままになっているのです。
アベノミクスの前の円高が長かったため、多くの企業が海外に工場を移す事に決めました。円高の時に計画を建ててしまった企業は、その後に円安になっても急には計画が変更できないため、そのまま海外の工場を完成させたのです。海外の工場が完成すると、当然日本からの輸出は減ります。
こうして日本からの輸出を減らした企業が多かったので、もちろん日本からの輸出を増やした企業もありましたが、全体として見ると日本の輸出は増えてこなかったのです。
経常収支を構成する4項目のうち、3つ目は第一次所得収支です。これは、日本が海外に持っている国債の利子や株式の配当などを受け取った金額から、日本が海外に支払った利子や配当を差し引いたものです。日本は海外の国債を大量に持っていますし、海外の国債は日本の国債よりも利率が高いので、第一次所得収支は大幅な黒字となっています。
4つ目は第二次所得収支で、これは途上国への援助の一部ですから、赤字となっています。
第一次所得収支の黒字が非常に大きいため、貿易収支などの赤字を補って、全体としての経常収支は何とか黒字を保っているというわけです。
今後については、経常収支が赤字になる可能性は小さいと思います。最近になって、ようやく輸出の数量が増え始め、輸入の数量が減り始めました。円高時代に計画された海外の工場が出来上がり、新しく海外に建てられる工場が減ってきました。一方で、日本で作って輸出した方が儲かると考える企業が増えて来たのです。
こうした動きが続くとすれば、貿易収支の赤字は減っていくでしょう。原油価格が大幅に値下がりしていますが、これが続けば更に赤字は減るでしょう。
サービス収支についても、大勢の外国人観光客が日本を訪れるようになっているため、赤字は減っていくと思います。
第一次、第二次所得収支については、それほど変わらないでしょう。
そうなると、合計としての経常収支黒字は、昨年を底として、今年からは少しずつ増えていくと考えられます。

分野: 景気予測 |スピーカー: 塚崎公義

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