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技術ライセンスと競争政策

永田晃也 技術経営、科学技術政策

15/03/26

今回のまとめ:技術ライセンスに対する競争政策の規制にも、国ごとの歴史的な背景や制度配置の差異を反映した特徴が窺えます。

 前回は共同研究開発に対する競争政策の規制を取り上げて国際比較を行い、それが国ごとに異なる進化の過程を辿ってきたことなどを見ました。今回は、技術ライセンスに対する競争政策の規制を取り上げます。

 技術ライセンスとは、技術の実施権を言い、技術を提供する側をライセンサー、技術を利用する側をライセンシーと言っています。
 ライセンシングのメリットは、ライセンサーの側からみれば、当該技術を獲得するために要した研究開発の収益を向上させるという点にあります。自社が当該技術を実施して利益を上げるばかりでなく、他社に実施許諾することによってライセンス収入--ロイヤリティが得られるからです。
 ライセンシーの側からみれば、当該技術と類似の効果を持つ技術を開発するために重複的な研究開発を行わずに済むというメリットが挙げられます。
 これをマクロな観点からみれば、要するにライセンシングは、技術を普及させる効果を持つことになります。一般に同一産業に属する企業間に技術が普及することは競争促進的な効果を持つとみられており、それ自体は競争政策上、望ましい効果と言えます。しかし、競合企業間でライセンシングが行われる場合、その契約の中で当該技術に関する権利行使の範囲を超えて競争制限的な取り決めが行われる可能性があり、それが競争政策による規制の対象になる訳です。

 この点を理解するために、ライセンシングの類型をみておきます。
 通常、技術ライセンスというと、研究開発が行われた後、その成果として得られた特許の実施権を取引するというケースが思い描かれるでしょう。これは事後的ライセンシングと呼ばれています。
 他方に事前的ライセンシングと呼ばれる形態があり、これは研究開発が行われる前に、その成果として得られる技術のライセンス契約を、予め取り決めておくというものです。
 ライセンシーは、実施許諾を受けた技術を、将来、改良するかも知れません。そのような改良技術をライセンサーに実施許諾することを定めた契約条項を、フローバック条項と言います。このような条項は、取引の元になった特許権の存続期間を実質的に延長させる効果を持つことから、研究開発に対するインセンティブを高めます。また、派生的な技術が共有されていくため、技術規格の標準化に路を開く可能性もあります。ただ、こうした効果が期待されるだけに、ライセンシーにとって著しく不利な条項が設定されてしまう虞もあるわけです。
 フローバックには、アサインバック、グラントバック、フィードバックという3つの種類があります。
 アサインバックとは、改良技術を譲渡させることを定めるものです。グラントバックとは改良技術をライセンサーに実施許諾することを義務づけるものです。最後にフィードバックとは、改良技術にういてライセンサーへの開示義務を負わせるものです。この内、アサインバックや、独占的なグラントバックが、不公正な取引として、競争政策上の規制の対象とされてきました。

 村上政博教授らの研究が明らかにしてきたことですが、この技術ライセンスに対する競争政策上の規制は、国ごとに異なった歴史を辿ってきました。
 日本の独占禁止法は、戦後、経済民主化政策の一環として導入されたものですが、そこでは国際ライセンス規制が先行していたと言われています。1968年には技術導入の事前審査が廃止されていますが、同じ年に公表された「国際的技術導入に関する認定基準」によって、特に日本企業が外国企業から技術導入する場合、日本企業が契約上過度に不利な立場に置かれないよう監視されることになりました。しかし、1989年に公表された「特許・ライセンス契約における不公正な取引方法の規制に関する運用基準」では、国内契約か国際契約かの別を問わないガイドラインが示され、更に1999年に公表された「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」では、国際契約に特有だった規制がなくなりました。
 日本のライセンス規制がこのような経緯を辿ったのは、戦後、多くの産業分野で先進国の技術に後れをとっていた当時は、外国企業からの技術導入を促進せざるを得なかったために、国際的な取引における日本企業の保護が重要な政策課題であったけれども、次第に日本企業の技術力が向上したことに伴って、ライセンス規制の対象が国内事業者間の取引に波及したという事情を反映したものと考えられています。一方、技術先進国であった米国では、まず特許権を使った独占形成の阻止を目的として国内ライセンス規制が発展し、それが後に国際ライセンスにも適用される方向に拡大していったと言われています。
 米国では1950年代から60年代にかけてライセンス規制が強化されました。さらに、米国司法省は1975年に「ナイン・ノー・ノーズ」と呼ばれる当然違法条項を発表しました。9種類の制限条項については、常に訴追するという規制方針で、例えばライセンシーに対して、特許でカバーされない原材料や部品をライセンサーから購入することを義務づけたり、特許でカバーされない製品・サービスを扱うことを制限したりする条項が該当します。
 しかし、1980年代には、こうした制限条項について常に訴追するのではなく、競争制限的な効果によって違法性を判断するという「合理の原則」が適用されるようになりました。また、1995年に公表された「知的財産権のラインセンスに関する反トラスト法上のガイドライン」では、技術ライセンスは一般的に競争促進的効果を有するという考え方が示されました。
 域内の共同化を目的とするEUでは、共同研究開発に対するのと同様、技術ライセンスに対しても競争政策上の規制は比較的緩やかで、規制対象から「一括適用除外」とする条件が明確に定められています。
 このように、技術ライセンスに対する競争政策の規制にも、国ごとの歴史的な背景や制度配置の差異を反映した特徴が窺えるわけです。

 これまで見てきたように、イノベーション・システムを構成する諸制度に国ごとの多様性が存在する背景には、それぞれに蓋然性や合理性があるのです。したがって、いずれかのシステムが最適だということはなく、また一国のシステムを改革しようとする試みにおいて、他の国の制度を部分的に導入する方法には限界があるということを、最後に申し上げておきたいと思います。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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