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労働力不足

塚崎公義 経済予測、経済事情、日本経済、経済学

15/03/30

まとめ: バブル崩壊後、日本経済は失業に悩んで来ましたが、少子高齢化に伴い、大きな流れとして労働力不足の時代を迎えようとしています。現在がその時代の転換点にあるため、わずかな景気の回復でも失業問題が労働力不足問題に変化したのです。


今回は、労働力不足についてです。アベノミクスによる景気回復で、それ以前は失業が問題であった日本経済が、一転して人手不足が問題となるようになりました。建設労働者が不足していて公共投資の予算があっても実行できない例も多いと聞きますし、牛丼チェーンが人手不足から夜間の営業をあきらめたといった話もありました。労働統計を見ても、失業率は大幅に下がりましたし、有効求人倍率は大幅に上がりました。
そこで、拙著『増補改訂 よくわかる日本経済入門』の増補改訂版を出すに際しては、数多くの修正を迫られました。気をつけたのは、「無駄な道路を作るのも失業対策としての意味はある」といった書き方を改めたことです。
景気が回復したと言っても、経済成長率は1年目が1%台、2年目は消費税増税でゼロ成長でしたから、本来ならば労働力需給を巡る景色が一変してしまうほどの成長ではありませんでした。それでも実際には景色が一変したわけです。それは、今が大きな時代の流れの転換点にあるからです。
日本経済は、バブルが崩壊してから、人手が余る時代が続いて来ました。人々が勤勉に働いてたくさんの物を作り出す一方で、倹約して物を買いませんから、物が余ります。余った物を外国に輸出すると、貿易摩擦が起きたりしますので、それも限度があります。そうなると、企業が物を作らなくなり、人を雇わなくなるので、どうしても失業が増えてしまうのです。
しかし、こうした状況は少子高齢化によって、ゆっくりと、しかし確実に変化しつつあります。多くの高齢者が引退して仕事をしなくなりますが、今までと同様に食事もしますし消費もします。一方で、少子化が進んでいるので、新しく仕事をはじめる若者は多くありません。したがって、必要とされる物の量が減らないのに働く人の数が減っていき、次第に労働力が余らなくなってくるのです。10年先、20年先には労働力が足りない時代が来るのでしょうが、今は丁度その中間にあるわけです。労働力が余りもせず、不足もしない「黄金時代」と言っても良いでしょう。
若い時に近視だった人が、歳をとると老眼すなわち遠視になるわけですが、その間に丁度良い時期がありますよね。それと同じように、日本経済も近視から老眼に移りつつある間の丁度良い時期にあるというわけです。
実際の失業率は、こうした大きな時代の流れと、短期的な景気の変動の影響を両方受けます。つまり、最近までの失業時代には、多少景気が良くなっても失業が少し減るだけで、人手不足にはなりませんでした。10年後、20年後には、多少景気が悪くなっても人手不足が解消しない、といった時代が来るかも知れません。しかし今は、大きな流れとして労働力が丁度良い感じなので、景気が少し悪くなると労働力が余り、景気が少しよくなると労働力が不足する、という状況になっているのです。
そう考えると、安倍総理はかなりラッキーだったと言えるでしょう。少し景気が良くなっただけで、失業問題が消えてしまい、人手不足が問題とされるようになったわけですから。何といっても、働きたくても働けない人が大勢いるか否かという事が、経済がうまく廻っているか否かを判断する際に重要ですから。
不足という言葉は困った時に使う言葉ですよね。特に企業経営者にとっては、人手が不足するというのは困ったことでしょう。しかし、悪いことばかりではありません。
人手不足になると、企業が省力化投資をするようになります。そうなれば、日本経済全体として少ない人数で多くの物が作れるようになります。これこそ、アベノミクスの成長戦略が目指している供給力の強化に当たるわけです。
人手不足になれば、アルバイトの時給なども上がるでしょうから、ワーキング・プアと呼ばれる人々も、少しはマトモな生活を送れるようになるはずです。ブラック企業も淘汰されて行くでしょう。いままでブラック企業が生き延びてこられたのは、社員が退職したくても他に仕事がないので仕方なく会社にしがみついていたからです。しかし、人手不足の世の中になれば、ブラック企業の社員は退職して他の会社に雇ってもらうでしょうから、ブラック企業としても社員を引き留めるために待遇を改善せざるを得なくなるわけです。
一般の企業にとってみても、それほど悪い話ではありません。自分の会社だけが人手が足りなかったり賃上げせざるをえなかったりするならば、それは困ったことでしょうが、ライバルの会社も同じ状況だとすれば、話は違ってきます。
今までは、安い給料で多くの社員が雇えましたが、ライバルも同じ条件だったので、ライバルが値下げ競争を仕掛けて来ることもあったはずです。しかし、これからはライバルも人手不足で賃金上昇に悩まされていますから、値下げ競争は仕掛けて来ないでしょうし、もしかすると値上げをしてくるかもしれません。そうなれば、こちらも迷わず値上げが出来るようになるわけです。
もちろん、10年後20年後に本格的な人手不足の時代が来れば、困った事もたくさん起きるわけですが、今の日本経済にとっては、景気が良くて人手が少し足りない、というくらいが丁度良いと言えるでしょう。
本来ならば、こういう時には公共投資を減らして財政赤字も減らしていくべきなのでしょうが、東北の復興や東京オリンピックの準備などは必要ですから、なかなか難しいのでしょうね。せめてオリンピックの後まで待てる公共投資は出来るだけ待ってもらえれば、と思います。

分野: 景気予測 |スピーカー: 塚崎公義

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