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EUについての一つの期待感

平松拓 企業財務管理、国際金融

15/01/29


前回、リトアニアのユーロ導入には政治的な狙いもあることについて触れましたが、今日はEUに対する政治的期待の一側面について、お話します。

リトアニアを含むバルト三国やバルカン半島が所在する中東欧地域では、多民族がモザイク状に交錯して居住しています。そのため、国境と民族の居住地の境は必ずしも一致せず、その結果、民族問題を抱える国が多くあります。どのように国境を引いたとしても、中に少数民族の居住地が残ってしまい、さらにその中にもまた別の民族の居住地が存在するという厄介な状態です。人形の中に人形が入っているロシアのマトリョーシカのようになっているのです。さらには宗教の問題も絡んでいるため、古来、戦争の発火点となってきました。

「EUが東方に拡大することにより、こうした状況にある国の機能を補完して、国境を越える緩やかな統治を実現することで、民族紛争が抑止される。」―――こうしたことも、EUに対する一つの期待感として存在しています。例えば、分裂の危機に瀕しているウクライナのような国でも、EU加盟によって国内の対立が鎮静化する。これが一つの理想ですが、残念ながら実態はそこまで至っているとは言い難く、昨今の状況が示す通り、EUへの接近が却って紛争の種にもなっているとも考えられる状況です。このようにEUが期待感に応えられていない背景には、EU側から幾つかの理由が考えられます。

その第一は、EUの起源は西ヨーロッパの経済的、政治的統合を目的として始まっており、冷戦期には西側陣営の主要メンバーとして、東側陣営、即ちソ連を中核とする社会主義諸国に対抗する側面を持っていたことがあります。ベルリンの壁が崩壊して東西ドイツが併合されて以降、確かにEUはポーランドやチェコ、ハンガリー、更には一部バルカン諸国の加盟を受け入れて東方へ拡大し、部分的に上述の期待に応えてきた面はあります。しかし、ロシアまでがEUに加盟することは全く想定されておらず、その結果、EUとロシアという二大勢力が併存する体制の中では、両者に挟まれた地域に於いて民族や宗教、文化による綱引きが生じ、却って国家としての枠組みが脅威にさらされる可能性があり得ます。

第二の理由として、EUの拡大が限界に近付いているということが考えられます。6カ国による欧州石炭鉄鋼共同体を起源とするEUは拡大の歴史を辿ってきました。ユーロが導入された1999年時点で15か国であったEU加盟国は、現在では28か国と2倍近くにまで増えています。しかし、メンバーが増え、且つ、多彩な国々を包含することになったことから、コンセンサスの形成、即ち、意思決定が従来のようには行かなくなっています。更にヨーロッパの領域という限界が近付くに連れて、これまでのように、拡大によるエネルギーを統合のモメンタムとして活かす、ということが望みにくくなり、拡大への情熱もやや冷めているような印象を受けます。

更に第三の理由として、欧州、特にユーロを採用している諸国(ユーロ圏)では経済危機の影響もあって、南欧諸国が足を引っ張る形で経済停滞が長引いていることが挙げられます。それを背景に、加盟国の中でユーロ離脱、あるいはEU離脱を主張する極右政党あるいは極左政党が勢力を増しています。EUがこのような状況にあっては、加盟を検討する国にとっても苦労して様々な基準をクリアしてまでEUに加盟することのメリットが見えにくく、国民的合意の形成が一層難しくなっていると考えられます。

以上、EUに対する一つの政治的な期待感とその実態、そしてその背景について述べましたが、EUやユーロ圏の経済の停滞、不振は加盟国自身にとっては「理想の問題」ではない「現実の問題」です。つまり、第三の理由として挙げた経済面の立て直しは、より基本的な問題であり、優先して取り組まれるべきテーマといえます。ユーロの導入を含め、これまで比較的順調に統合の深化と拡大を続けてきたEUですが、ここに来て行き詰まりを見せているように感じられる背景には、構造面の問題もさることながら、リーマンショック以降の経済の低迷による自信の喪失が考えられます。政治的な期待の実現に繋がる欧州の統合は遠大な理想ですが、一朝一夕に実現するものではありません。加盟国が経済面で足元を固めることなくしては、その道は決して開けないといえるでしょう。

今日の話をまとめます。
経済的ばかりでなく、政治的にも様々な可能性が論じられるEUですが、最近になってやや輝きを失ってきているような印象を受けます。背景には、EUの構造的な問題と並んで、特にユーロ圏での経済の低迷による自信の喪失があるものと考えます。遠大な構想の実現のためにも、着実に経済の問題に取組み、足元を固めていくことが肝要です。

分野: ファイナンシャルマネジメント |スピーカー: 平松拓

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