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ビットコイン

実積寿也 産業政策、通信政策、通信経済学

14/04/14


最近、世間を騒がしているものの一つにビットコインといわれているものがあります。

そもそもビットコインとは何でしょうか?ビットコインの正体は、2009年5月にサトシ・ナカモトと名乗る人物が発表した論文で示されたアイデアがもとになったバーチャルな「おかね」です。電子マネーの一種といっても良いのですが、WAONやEdyのように一ポイントが1円に等しいといった現金の裏づけがきちんと存在するわけではなく、むしろ既存の現金システムとは独立している点が第一の特色になります。ネット関連には比較的強い事典といえるウィキペデイアでは「公共トランザクションログを利用しているオープンソースプロトコルに基づくPeer to Peer型の決済網及び暗号通貨」と定義されており、コトバンクでは、「インターネット上で流通している電子マネー。通貨の単位はBTC。紙幣・硬貨は発行されていないため、「仮想通貨」「デジタル通貨」などとも呼ばれる。」と述べられています。正直いって、一般の方にとってはなんのことやらわからないもの、怖いもの、怪しいものという印象だと思います。

ただ、経済学的にみると、この一見怪しさ満点のビットコインは我々が通常「おかね」に求めている性質を情報通信技術を用いて上手に演出しているものであることがわかります。

そもそも「おかね」は物々交換を効率化するものとして出現したといわれています。ただし、物々交換では、自分が欲しいものと提供したいものが、相手の提供したいものと欲しいものと一致しないと効率的に取引を完了することができません。例えば、花見の宴会中におつまみが足りなくなって、隣のグループに缶ビールをあげる代わりにおつまみセットをいくらか分けてもらうような場合、隣のグループがワインパーティーをしていたり、あるいは未成年の集団であると期待した取引ができません。その場合、缶ビールではなく、みんなが喜んで受け取ってくれる「おかね」の存在は大変役に立ちます。

こうした「多くの人が喜んで受けとってくれる」という「おかね」の性質は「一般的受容性」と呼びます。一般的受容性を実現するためには、利用者にとって便利であり、その価値が信用できることが必須です。

まず、前者について考えましょう。ビットコインの「おかね」としての便利さは、その利用が可能である地理的範囲の大きさや利用可能店舗の密度に比例します。より多くの店で利用できる「おかね」の方が、少数の店でしか利用できない「おかね」よりも使い勝手が良いのはあたりまえです。「一般的受容性」をみんなが信じていて「おかね」として流通可能な範囲が広くなるほど、「おかね」としてのビットコインの価値が高まり、その結果、より多くの人がビットコインを利用したがるというプラスのフィードバック効果が働きます。実は、私たちが日ごろ利用している電話サービスでも同じような性質があり、ネットワーク効果と呼ぶのですが、こうしたプラスのフィードバック効果が働くためには、だいたい市場の10%の人が利用を開始する必要があるといわれています。ビットコインは既に一兆円相当の価値が流通しており、世界約200以上の国と地域に45万カ所以上の拠点を有する世界最大の送金サービスネットワークを持つウエスタン・ユニオンと同じような規模の取扱高を記録しています。これは、ビットコインが非常に安い手数料で送金を可能にする手段であるということに大きく依存しているわけですが、海外送金を行う必要がある利用者にとっては有利な手段になっています。あるいは旅行先で現金を使うケースが多いバックパッカーにも重宝されているようです。また、店頭でビットコインが使える場所も徐々に増加しつつあるようで、ニューヨークのマンハッタンでは50箇所程度、ロンドンでも30箇所以上の店で利用できるという情報があります。東京でもバーの支払や、外国語教室、美容サロンなどで利用できます。さらに、ドルやユーロなど、従来からある「おかね」に換金することも可能ですから、その場合、利用可能場所は全世界津々浦々ということになります。その意味で、ビットコインは、利用拡大がさらなる利用拡大を生むというプラスのフィードバックが既に働きだしている可能性が否定できないと考えています。

「おかね」としての価値が正しいものとして信用されるためには、偽造防止が徹底している必要があります。この点、私たちが普段利用している日本銀行券には世界最高水準の印刷技術が採用されており、それが偽造を困難にしています。偽造を困難にしているということが、「おかね」の不正使用や二重支払を防止することを可能にし、私たちは安心してその価値を信用することができます。つまり、通貨発行主体である中央銀行や政府が力を尽くして「おかね」の正しさを保証していることになります。国や中央銀行などの権威的な組織に囚われない通貨システムとして構築されているビットコインでは、ビットコイン全体で取引を監視するという方法で、「偽造防止」を成し遂げています。実は、この点がビットコイン技術の革新的な部分で、コミュニティ内で情報技術を駆使した取引監視システムを自律的に動かすことにより、偽造を極めて困難にすると同時に、偽造をできるだけの能力を手にしたものが仮に出現した場合でも、ビットコインシステムの信用を維持するために協力したほうが得になるフレームワークを作り上げています。

つまり、ビットコインは、「おかね」として必要な最低限の条件である「便利さ」と「高い信用」の基準をクリアした、あらたな決済手段としての地位を確立しつつあるのではないかというのが私の意見です。

とはいうものの、皆さんの頭の中には、渋谷にあったビットコインの取引所であるマウントゴックスが本年2月に経営破綻した件が鮮明に残っているかもしれません。マウントゴックスはビットコインの運営をおこなっていたのではなく、ビットコインと現金の間の取引を仲介する業務をおこなっていた企業です。同様の業務を行っている企業は他にもあります。つまり、マウントゴックスの破綻は、ビットコインという「おかね」のシステムの破綻ではなく、それを使って両替事業を営んでいた企業の破綻に過ぎず、ビットコイン自体の健全性の根本を揺るがすものではないということになります。

実際、同社の破綻後もビットコインは紙くずになってはいませんし、取引も通常通り行われているようです。インターネットやITを専門とする経済学者として、ビットコインの今後の行く末をしっかり見守っていきたいと思います。

今回のまとめ
ビットコインは「おかね」として最低限必要な利便性と信頼性をデジタル技術を用いて高度に満たしつつあります。そのため、最近の事件にもかかわらず、その利用シーンは今後どんどん増えていくことが期待されます。私たちは、この新しい決済手段をいたずらに怖がることなく、どう巧く付き合っていくのかを考えたほうが良いと思います。

分野: 産業政策・通信経済学 |スピーカー: 実積寿也

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