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京セラの心の経営 1

岩崎勇 日本の会計、国際会計、税務会計、監査論、コーポレート・ガバナンス、西洋・東洋思想と倫理、経営哲学

13/12/10

今日は、京セラの「心の経営」あるいは「心の経営システム」についてお話します。

1 心の経営の意義
「心の経営」とは、経営の中心を心に置くものです。経営者は勿論、従業員の心を上手くコントロールしていくことを中心として経営するということで心の経営と呼んでいます。一般的に心というと感情などのイメージがありますが、哲学や宗教では、感情等の奥にある理性心や霊性心などを問題とします。すなわち、哲学や宗教で最も重視しているのは、感情等の奥にある本心良心です。京セラの経営哲学では、経営判断に迷ったときは、「人間として何が正しいか」ということで判断を行います。このときに心を使いますが、それは、単なる我欲の表明である感情ではなく、その奥に備わっている理性心あるいは本心良心です。すなわち、自己や自社だけでなく、社会や環境まで考えた本心良心あるいは理性心というもので判断を行うという哲学に基づいて経営を行うということです。

2 西洋流の経営の問題点
① 京セラの経営理念
以前お話ししましたが、京セラの経営理念は、「従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」であり、企業が存続・発展するためには企業競争に打ち勝って利益追求することが必要です。そこで、従業員の物心両面の幸福の追求と効率的な経営の遂行の両立を目指しているのが心の経営です。
ところで、西洋流の利益至上主義では、現在人類が直面している、以下のような深刻な問題を解決できません。
② 環境と利益
西洋流の利益至上主義では、利益と環境のどちらを選択するかといった場合、一般的に利益ということになります。例えば、企業の社会的責任(CSR)について、CSRは利益が上がったら、それを実施する、という感覚の人が結構多いのではないかと考えます。つまり、そこでの考え方の基本は利益至上主義であり、利益が上がってはじめて社会や環境を考えても、利益が上がる前は、それを考えないのが普通です。したがって、利益至上主義でいくと環境を優先するということはありません。それゆえ、この考え方によれば、企業の活動に任せておけば、環境問題が解決できるということはありません。
③ 心の不安と利益
また、現在は物質文明を最優先させて発展してきており、もう一方の心の重要性を軽視し続けています。このため、自殺者や引きこもり等の心のバランスを崩す人が増大してきています。そして、例えば、雇用不安ということに関して、利益至上主義でいくと、従業員の雇用と利益を選択する場合、残念ながら一般的に利益になります。利益が上がらなくても雇用を維持するというのが日本的経営ですが、英米流の考え方はそうではなく、雇用よりも利益を選択してしまいます。このように、西洋流の利益至上主義では、心の不安の問題は解決できないと考えられます。
④ 富の偏在と利益
さらに、富の偏在ということに関して、従業員の賃上げと経営者報酬の増額を迫られた場合、利益至上主義では、一般的に経営者報酬の増額になります。したがって従業員給与が安くても経営者がリーダシップを発揮して世界を飛び回ってやっているから会社が成り立っているという感覚です。米国等では、安い従業員の給与の何十倍・何百倍の給与をCEOがもらっていることも、珍しくありません。その結果として富の偏在が加速します。このように、西洋流の利益至上主義では、富の偏在や格差の拡大の問題は解決できないと考えられます。

3 心の経営
西洋流の利益至上主義では現在人類が直面している上述のような深刻な問題は解決できないことになります。それを解決する為の1つの方法として、京セラ流の心の経営があると考えられます。心の経営で一番重要なのは、経営の核心に心を置いて従業員の心の動きを監視することです。心には、強い面と弱い面、2つの側面があります。強い面では、信頼しあって結束すると日本が得意としているチームプレイができます。目標や夢の達成を、チームワークを発揮して実施すれば、「なでしこジャパン」のように、優勝できます。逆に弱い面では、不正や我欲が出てきますので、これを未然に防止する仕組みを設定し、有効に運用することが必須です。そこで、強い面は伸ばし弱い面は監視するという経営システムを作っていくことで、企業の強い面で競争力を保ち利益を上げながら、従業員は満足して働くことによって、結果として物心両面の従業員の幸福を追求できます。このようなシステムが心の経営(システム)の基本です。なお、心の経営システムの具体的な内容については、次回以降、このシリーズで順にお話していくこととします。

4 まとめ
今日のまとめですが、西洋流の利益至上主義の経営では現在人類が直面している環境破壊、心の不安や富の偏在というような深刻な問題を解決できません。むしろ東洋流の考え方の心の経営でそれが可能であるということを、次回以降にお話ししたいと思います。

〔参考文献〕
青山敦[2012]『京セラ 稲盛和夫 心の経営システム』B&Tブック
稲盛和夫[2010]『アメーバ経営』日経ビジネス文庫

分野: 会計 |スピーカー: 岩崎勇

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