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京セラの稲盛会計学(1)

岩崎勇 日本の会計、国際会計、税務会計、監査論、コーポレート・ガバナンス、西洋・東洋思想と倫理、経営哲学

13/06/03


今日は、京セラの会計学、所謂、稲盛会計学についてお話します。

これは、一般的な会計学つまり普通学校等で教えられている会計学とは異なった、京セラ独自の会計です。しかし、このような考え方に基づき会計を処理し、かつ経営を行ったおかげで、京セラは今日まで赤字経営に陥らず、好調な業績を上げてきております。ここでお話しする会計のお話は、単なる外部に報告する会計だけではなく、会社経営・管理にも役立つ、そのような財務及び管理の両方に役立つ会計のお話しです。

1 原理原則に基づく判断
まず、経営と会計の関係ですが、経営を行う上で何らかの判断基準が必要になります。稲盛氏は当初何に従って経営判断を下せばいいかを非常に悩んだようです。そして結局、原理原則、筋の通った人間として正しいことに基づいて判断を行い、経営を行う、つまり良心に従って経営を行うようにしようと考えました。これが最も基礎的な考え方です。そして、これと同様に、会計においても、一般常識、慣行、会計的な考え方等に従うのでなく、常に何が会計の本質的な原理原則であるのかを考え、その原理原則にしたがって会計及び経営を実行しようと考えました。
私は会計の考え方から入っているので、会計の考え方は当たり前と思っていますが、経営者とお話すると、会計の考え方との間に大きな考え方のギャップがあることを感じることがしばしばあります。例えば、利益が上がっていても、手元にはお金が無い場合、経営者は一般に利益上がっているのであるからお金があるはずであると当然考えます。ところが、会計は発生主義会計という一定の会計のルールに従って利益計算をしているため、必ずしも利益と同額のキャッシュが手元に残るとは考えません。従って、経営者の視点で見ると、そういう所にギャップを感じる訳です。
しかし、会計の常識に捉われず、原理原則から会計を考え、なぜ利益が上がっているのに、現金が手元にないのかを考えるのが京セラ的な会計の考え方です。そこでは、会計的な考え方や一般的な社会慣行・考え方等には従っていません。

2 原理原則に従って考え、かつ処理するものの具体例
例1:減価償却
例えば、①企業では建物や車などを減価償却します。価値が減少することを減価といい、それを費用化していくことを減価償却といいます。この減価償却をどのような原理原則で行うべきかを考えます。一般的に減価償却する方法には税法規定があり、税法規定に従って何年で償却するということが決まっています。中小企業の多くはそれに従って計算を行います。しかし、京セラでは、このような慣行に従うことはおかしいと感じています。例えば、税法では機械装置は10年で償却する、つまり100万円のものを10年で、1年に10万円ずつ費用化すると規定されていると仮定します。ところが会社の方ではそれを5年しか使わないのであれば、5年で償却するのが当然です。しかし、現実には中小企業を中心として、税法規定に従って10年で処理するところも少なくありません。ところが京セラでは、原理原則に従って考えますので、このような税法基準に従うことはおかしいと考えます。そこで、京セラでは自主的な耐用年数(この例では5年)を使用して減価償却を行います。

例2:売上高当期純利益率
また、売上に対する当期純利益の割合が売上高当期純利益率ですが、一般にこれは大体5パーセント程度が平均値であるといわれることがよくあります。そこで経営者はこの比率が業界平均であれば問題ない思いがちです。ところが、京セラでは、そのような一般常識に捉われずに、自主的にもっと利益率が上がるように考えることが必要であると考えます。常に京セラでは、慣習的な考え方には捉われずに、原理原則に基づき考え、もっと高い利益率を目指します。

例3:経営から見た会計の要点
そして、経営を会計との関係で考える場合、経営者としては分かりづらい会計を理解するために、稲盛氏は、原理原則の観点から売上を最大に経費は最小に抑え、それによって利益をできるだけ効率的に上げることが、会社経営及び会計のポイントであると考えました。そして、この利益がマイナス(赤字)では会社の継続できないと考えました。要するに収益部分(売上)を最大にするように努力し、同時に経費はできるだけ抑えるのが、経営から見た会計の根本であると正しく理解しました。
売上高 ― 経費 = 利益   →   収益 - 費用 = 利益

例4:値決めは経営者の責任
経営を行う場合、値決めは非常に重要な問題です。値決めこそが経営だといっても過言ではありません。この重要な値決めを営業マンに任せるのではなく、原理原則に基づいて経営者が決定することが重要であると考えました。その決め方は、顧客が納得して喜んで買ってくれる金額の最大のものに決定するということです。これこそが買い手良し・売り手良し(・社会良し)の考え方ですが、それをいくらに決めるのは経営者の責任です。この場合に、正常な利益が獲得できるように、会計数値を十分に理解できていることが経営者に求められます。

3 まとめ
今日のまとめは、経営において会計は必須の手段であり、会計が理解できなくて真の経営者とは言えません。会計数値という事実に基づいて経営することが必要です。しかも会計を考える場合に、単に会計的な考え方や社会常識・一般慣行等に従うのではなく、原理原則に基づいて考え、かつ処理(行動)することが重要であるということです。

〔参考〕稲盛和夫[2009] 『稲盛和夫の実学 経営と会計』日経ビジネス人文庫

分野: 会計 |スピーカー: 岩崎勇

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