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中小企業金融円滑化法(1)

平松拓 企業財務管理、国際金融

13/02/26


今回と次回は、中小企業の金融問題に関連したテーマを採り上げます。

皆さん、「中小企業金融円滑化法」という法律について、最近目にしたり聞いたりする機会があるのではないかと思います。これまで3年余り中小企業の金融を支援してきた法律で、本年3月で廃止となることが予定されているのですが、このまま廃止になると、場合によってはかなりの数の中小企業が破綻する懸念があることから、その出口戦略を巡って活発な議論が行われています。

この法律が施行されたのは2009年12月のことです。2008年のリーマンショックによって日本経済が大きな影響を受ける中、本邦金融機関はサブ・プライム・ローン関連債権による直接の影響こそあまりありませんでしたが、株価下落により巨額の評価損を抱えたことから、「貸し渋り」や「貸し剥がし」をするかもしれない、その結果、多くの中小企業が経営難に陥る、との懸念の下に制定されたものです。

こうした法律が制定された背景には、当時民主党と連立政権を組んでいた国民新党の強い意向があったとされますが、期間1年余りの臨時措置のための時限立法として制定され、東日本大震災もあって2011年3月より2度にわたって微修正と1年毎の延長が行われてきました。しかしながら、昨年3月の延長に当っては、金融機関が本来、独自の信用判断に基いて融資の実行や融資条件の決定を行うべきところを、法律等により半ば強制するような形となる結果、副作用への懸念が強まったことから、「最後の延長」ということが表明されていました。

基本的な中身は、中小企業や個人から申し出があった場合に、金融機関は貸付条件の変更等に努めることを規定したもので、その実効性を担保するために、金融機関に体制整備や開示・報告の義務を課すとともに、金融機関の対応を支援するために、信用保証協会による融資保証の制度的拡充を行うことが織り込まれました。また、従来は金融検査において、不良債権として分類されてきたそのようなリスケ債権について、金融検査マニュアルの改定により通常債権と看做すという内容を含んでいました。更に、延長の過程で行われた修正では、「金融機関のコンサルティング機能の発揮」ということが、中小企業の経営改善のために強調されました。

この法律にたいしては、制定当初より、金融機関の貸し渋りや安易な融資先の切り捨てを防止し金融機関本来の機能を発揮させるという点で、中小企業の経営支援に非常に効果的な措置である、との積極的な評価もありましたが、経営の立ち行かない中小企業を所謂「ゾンビ企業」化させて徒に長らえさせるもので、金融の規律をゆがめ、金融機関の経営を不安定化させ、ひいては最終的な国民の負担につながる、といったネガティブな評価も併存していました。

実際のところ、この制度を利用した融資条件の変更等は、申込案件数に対して9割、企業数では40万社にも上りました。結果として、2009年以降の中小企業の倒産は件数・負債金額共に顕著に減少したことから、この法律の「中小企業への臨時の財務的支援による倒産防止」という直接的な目的については、ほぼ当初の目論見通りの効果を上げたといえそうです。

しかしながら、この法律により融資条件の変更を認められた約40万社のうち、約8割が再度の融資延長を望んでいると言われ、資金繰りを支援しても事業改善はあまり進んでいないという見方もあります。また、金融機関が、法律の要請に基いて融資条件変更・借換に応じるようなことは避けるべき、という考え方が金融行政の基本にあるべきことを考えると、少なくとも、この法律の使命は終わったと考えるべきなのかも知れません。昨年の延長が「最終」と銘打ったのは、こうした金融の規律を重視してのことで、また、リーマンショック後の「臨時的措置」という立法の趣旨から考えても、常態化させないことが本来の主旨のように考えられます。

しかしながら、このまま延長されずに廃止されれば、自然体で約2割、或いはそれ以上の企業の破綻が避けられないと見る向きがあります。昨年の総選挙で政権は替った訳ですが、このまま成り行きに任せて期限を迎え、仮に中小企業の大量破綻というような事態が現実化すれば、新政権にとっては経済的にも政治的にも耐え難いことかもしれません。

そこで必要となるのは、この1年間の延長は最後の延長という表明がなされたことの意味の再確認、即ち、この1年は将に出口戦略策定のために有効な準備をすべき1年であると云うことの再確認ではないでしょうか。大量破綻を回避しつつ如何にエグジットするか、これまでに再生ファンドの活用やDDS活用など様々なアイデアが出てきていますが、まだ残された時間、単なる先延ばしや肩代わりでないエグジットに向けての更なる知恵の創出のための検討が期待されます。

ここまでの話をまとめますと、3月に期限を迎える中小企業金融円滑化法は、リーマンショック後の中小企業の破綻増加を回避した点では相応の効果を上げてきましたが、同時に単なる破綻の先送りという可能性も現時点では否定しえません。今、重要なのは、単なる先延ばしや肩代わりでない形で、ソフトランディングしながらエグジットするための知恵を絞ることだと思います。

分野: ファイナンシャルマネジメント |スピーカー: 平松拓

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