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ノーベル賞と産学連携(その1)

高田 仁 産学連携マネジメント、技術移転、技術経営(MOT)、アントレプレナーシップ

12/11/06

・京都大学の山中教授が、iPS細胞の作製技術で今年のノーベル医学・生理学賞を受賞し、話題になっている。この話題を、産学連携、つまり、大学と産業界が連携して、最終的に実用化する道のり、という観点から解説してみたい。

■iPS細胞とは
・iPS細胞とは、「人工多能性幹細胞」の略。哺乳類の体細胞を取り出して、そこに4種類の遺伝子を導入すると、その体細胞が「胚」の状態になる(=初期化と呼ぶ)。これを使えば、心筋や肝臓や神経や・・・あらゆる種類の細胞を作製できる。
・この技術を使えば、患者さんの細胞からiPS細胞を作製し、それをもとに必要な組織(臓器)へと培養し、拒絶反応なく移植する、という再生医療分野が大きく発展する可能性がある。
・なぜ大きく発展するかというと、これまで「多能性」をもつ細胞の作製には、「ES細胞」という「受精卵」を使用する必要があったのだが、「受精卵」は「既に生命を持った状態」とみなすこともでき、それを破壊して実験に利用することは倫理的な問題が生じうるという理由があったためである。

■(1)iPSの実用化とは?
・では、iPS細胞は社会においてどのように利用できるのだろうか?
①リサーチ・ツール(実験用試料)としての利用
・最も身近な利用方法は、リサーチ・ツールとしての利用だ。例えば、医薬品や化粧品など、化学物質の安全性や効能を明らかにしようとすると、ヒトの細胞や組織を用いて実験をやらねばならない。しかし、入手可能なヒト細胞は限定されているため、実験そのものを大規模に効率的に行う上での制約となっている。
・iPS技術を使って、目的の組織細胞を培養すれば、この実験用のヒト細胞の供給量の制約を解決できる、例えば、医薬品開発では、何十万種類もの薬剤候補化合物を細胞にふりかけて、効果のあるものを選別するスクリーニングが必要だが、iPSで作成したヒト細胞を使って、効率良くスクリーニングを行える。


■②再生医療での利用
・病気や事故で失った体の一部を、その患者さんのiPS細胞から作製して元の体に戻す、という治療法が進歩する可能性がある。
・例えば、白血病治療のための骨髄移植、視力を回復させるための網膜移植、重い心臓病など、移植治療が必要な領域は多い。
・移植の場合、ドナーが現れないまま命を失う患者さんが多かった。それを、iPS細胞の技術で解決する道が開かれたのである。

・山中教授は、元々整形外科の臨床医だった。患者さんをどうやって救うか、日々そのことを考えていた。「手術が下手だ」ということで、途中で基礎研究者へと道を変えて、結果的にノーベル賞の受賞に至った。
・その山中教授は、iPSの臨床応用を視野に入れて「これからが本番」と語っている。いかに優れた技術でも、実際に使われて患者さんが助からないと意味がないことを、臨床医でもある山中先生は強く意識している。だから、産学連携が不可欠なのだ。

・以上のように、医療の世界を大きく前進させるiPS技術だが、この実用化を促進するために、産学連携の観点からどのようなことを行う必要があるか、次回続けて話をしたい。


■【まとめ】
・iPS細胞技術は、従来からの制約を乗り越えて、未来の医療に貢献する可能性がある。ノーベル賞受賞は、あくまでもその通過点のひとつ。今後、臨床応用のための産学連携による研究開発が加速する。

分野: 産学連携 |スピーカー: 高田 仁

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