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リーマン・ショック以降の日本経済

塚崎公義 経済予測、経済事情、日本経済、経済学

12/10/03

前回は、バブル崩壊後の長期停滞について御話ししましたが、今回はもう少し短い期間で、リーマン・ショック後の日本経済について御話ししましょう。

リーマン・ショックの最大の影響は、輸出が減った事です。海外の景気が悪くなった事と、円高になった事がダブルパンチで効いたのです。もともと国内の需要が足りない分を輸出がカバーしてくれていたのですが、これが消えてしまったため、大変な不況に陥ったというわけです。

輸出が少しずつ回復するにつれて、景気も少しずつ回復しています。戻り切っているわけではありませんが、リーマン・ショック前の輸出が出来過ぎだったので、今の水準でも頑張っていると考えるべきでしょう。

ここで、円高について考えてみましょう。1ドル80円というのは、過去と比較すると大変な円高であるように見えます。しかし、日本は物価上昇率が貿易相手の国よりも低い事を考えると、そうでもないのです。もしも為替相場が動かなければ、物価上昇率が低い分だけ日本の輸出に有利になるはずなので、その分を割り引いて考える必要があるからです。
割り引いた計算の結果が発表されていて、実質実効為替レートという名前の統計ですが、それによると今の日本の輸出の難しさは過去20年の平均よりも楽だ、という事になっています。ですから、1ドルが80円であることは、それほど問題ではないのです。だからこそ、輸出はある程度戻っているのです。

しかし、問題もあります。日本製品のライバルである韓国やドイツの通貨が大幅に安くなっているので、それで日本製品は苦戦しているのです。よく、日本製品が韓国製品に負けているという話を耳にしますが、その理由の一つが韓国の通貨が安い事なのです。困ったものです。

設備投資の話に移りましょう。リーマン・ショック後に景気が悪くなった事で、設備投資が大きく落ち込みました。そこまでは普通の事なのですが、景気が少しずつ回復してきても、設備投資があまり戻ってきていません。設備投資は、短期的には鉄やセメントや機械の需要となって景気を回復させますし、長期的には日本経済が最新鋭の工場などを持つことで競争力を高める力となるのですから、大いに伸びて欲しいのですが、何とも困ったことです。

設備投資が伸びていない理由も問題です。「少子高齢化だから日本経済は今後も成長しないだろう。だから、投資しても儲からない」ということなのか、「円高だから国内ではなく海外
に工場を作ろう」ということなのか、いずれにしても明るい話ではありません。

昨年、貿易収支が赤字になり、話題になりました。日本は、強い輸出企業が多いので、長い間巨額の貿易黒字を稼いできており、少し前までは貿易摩擦と言って貿易黒字が大きすぎると
外国に文句を言われていました。そんな日本が貿易収支で赤字になったのですから、驚きました。
昨年は、大震災の影響で生産がストップしていた工場も多かったので、その影響もあったのですが、工場が生産を再開してからも赤字が続いているので、更に驚きました。今後については、海外の経済が少し元気になるか、為替が円安になれば、再び黒字になると思います。このまま海外の経済が不振を続けたら、暫く日本の貿易赤字が続くかも知れません。

株価の低迷も、意外な事の一つです。景気はある程度戻ってきていますが、その割に株価が戻っていないのです。株価に大きな影響を与えるのは、企業の利益、金利、人々の株価予想、の3つです。
そのうち企業の利益は相当高い水準にまで戻っていますし、金利はほとんどゼロですから、株価にはプラスの材料なのですが、何といっても人々の株価予想が悲観的なのです。「少子高齢化だから日本企業は将来性が無い」「政治が無策だから」「円高だから」「ヨーロッパの債務危機が心配だから」といった理由が思いつきますが、どれも決定的ではありません。

一株当たり純資産を下回る株価の会社も多いですし、米国の株価がリーマン・ショック前の水準に戻っている事と比べても、日本の株価の不振が目立ちます。どう考えても日本株は安すぎると思います。
人々の悲観的な見方が少しでも緩み、株価が戻る事を期待しています。

暗い話ばかりしてきましたが、最後に、明るい話をしましょう。景気自体は緩やかに回復しています。
回復の速度が期待したほどではありませんが、以前御話ししたように、景気は水準よりも方向が大切です。
方向さえ上ならば、いつか水準も良くなるからです。海外の景気が悪いので、本当にそうなるかどうか、若干の不安もありますが、期待して待ちましょう。

今の景気を学生の成績に喩えれば、優や良は到底出せませんが、不可にするほど悪くはないので、「可」といった所でしょう。

今日のキーワードは「今の景気は優良可の可」です。

分野: 経済予測 |スピーカー: 塚崎公義

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