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運転資本のコントロール

平松拓 企業財務管理、国際金融

12/09/05


前回、売上の伸びている企業では運転資本も増加しがちなことから、資金手当てや、運転資本のコントロールが重要になるという話をしましたが、今回は運転資本のコントロールについてお話しします。


キャッシュ循環サイクルの短期化による運転資本コントロール
運転資本の大きさを左右する要因としては、売上の大きさ以外にもキャッシュ循環サイクルの長さがあります。

業種や個々の企業のビジネスモデルなどによって、キャッシュ循環サイクルの長さには差があり、このサイクルが長い場合には、資金が回収される前に何回も仕入れが行われることになって、その分運転資本の所要額が嵩みます。例えばスーパーマーケットのような小売業では、販売はほとんどの場合現金即時払いで、しかも在庫の期間も短いわけですが、一方で仕入れは「掛け」で行われることも多いために、キャッシュ循環サイクルが短く運転資本は少額で済むのが普通です。

逆に売り上げが伸びれば、却って資金余裕が生じるというケースもあります。これに対して、家具店などの場合はいかにも在庫期間が長そうで、その分運転資本が嵩みそうです。

企業のビジネスモデルによって違いが出る例としては、現金販売や現金仕入れを行う企業、或いはJIT(Just In Time)システムの活用により在庫を極端に絞ってキャッシュ循環サイクルを短縮化している企業などが挙げられます。

有名な例ですが、パソコンを半ばオーダーメイドで販売しているデル・コンピューターでは、自社でほとんど在庫を持たず、客からオーダーが入った時点で部品メーカーに発注するという形で運転資本の負担を軽減し、それを価格面の競争力に生かしています。


運転資本をコントロールすることに伴うコスト
運転資本をコントロールすることはそうした面でメリットがあるわけですけれども、ただ闇雲にキャッシュ循環サイクルを短期化すればいいわけではありません。

まず在庫日数を短縮化するために例えば製品在庫を圧縮すると、顧客の要望に応える十分な選択肢が提供できなくなる恐れがあります。例えば自動車販売でお客さんの希望する色が揃わないといった例が分かり易いと思います。

また部品や原材料の在庫を絞ると、仕入れが滞ったようなケースには生産停止に追い込まれるといったリスクが高まります。また、在庫を絞るためには発注の頻度を増やさなければならないので、発注コストが嵩んだり、発注金額の規模が小さくなるために値引きが得られなかったりといったデメリットも出てきます。

また、売掛期間を短期化する場合は、値引き等の交換条件と組み合わせないと顧客を失う可能性があります。買掛金を増やす、即ち買掛期間を延ばすように納入業者に求めると、業者が離れて行き、仕入れが滞るリスクが増します。


運転資本を増やすデメリット
逆にこの運転資本を増やす場合を考えてみましょう。既に述べたように、運転資本が増加するということは収益率の低い運用が増えることになり、在庫が増やせば、その上に倉庫代などの保管費用の負担や、陳腐化した在庫の処分費用などの負担が増す結果となります。

そうかといって売掛け期間を延ばしたり、掛売りの条件を緩和したりすると、貸し倒れ件数や貸し倒れ金額が増大するリスクがあります。


トレード・オフで定まる最適なバランス
つまり、運転資本については、在庫や売掛金が不足することによって生じるコストと、逆に売掛金や在庫を保有することによるコストの、この2つのコストのバランス(トレードオフと言う)によって最適な水準が決定されることになります。

この最適バランスは業界により、あるいは個々の企業により異なります。例をあげれば、在庫については、売上量や商品(或いは部品・原材料)の単価、仕入れや保管に係るコストや金利によっても異なってきます。

売上量が多ければ多い程、それから商品や部品原材料の価格、価値が小さければ小さい程、保管コストが安ければ安い程、金利が低ければ低い程、最適な在庫量というのは増えることになります。


災害の影響で見直しの生じた在庫戦略
それでも企業は運転資本の負担を軽減するために、これまで色々努力をしてきています。

特に在庫については、トヨタ自動車に代表される企業各社は、ほとんど在庫を持たずに必要になった時に必要になった分だけサプライアーに納めて貰うというJust In Time システムを採用するなど、極限に近い所まで圧縮努力を行ってきました。

しかし、東日本大震災やタイにおける洪水など、最近の経験により、極端な在庫の絞込みによるリスクが改めて認識される結果となりました。こうした経験は、昨年から今年にかけては多くの企業における調達戦略の見直しや在庫戦略に繋がっています。

今日のキーワードは、運転資本のコントロールです。

分野: 国際経営 |スピーカー: 平松拓

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