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過当競争を考える

実積寿也 産業政策、通信政策、通信経済学

12/08/27

■過当競争とは
今日は過当競争について考えます。競争は市場メカニズムにおいて最も重要な要素であり、数多くの良い効果を持っています。しかしながら、反面、非常に過酷な結果も生み出します。例えば、わが世の春を謳歌しているような上り調子の企業が、競争に晒された結果、最終的には市場から追い出されてしまうことがあります。あるいは、この間まで格下と侮っていた企業の傘下に入ってしまうという例なども昨今は新聞紙上などで見られます。

経済学の世界では、競争というものは非常に肯定的に評価されています。例えば、「競争を通じて最も効率的な企業が選択される」「競争に勝ち残るために技術開発が進展する」あるいは「競争により市場で提供される財・サービスのバリエーションが増え、消費の選択肢が増大する」などが評価の例です。

一方で、「過ぎたるは及ばざるが如し」と言いますが、現実社会では厳しすぎる競争はかえってよくないという意見があります。これが俗に言う過当競争という考え方になります。


■タクシー業界における規制緩和の動き
近年、タクシー業界において、小泉規制改革の下で2002年に施行された「改正道路運送法」以来の規制緩和方針を見直し、規制を再び強化するという動きが見られます

2002年の改正道路運送法以来、規制緩和によりタクシー業界への参入が非常に容易になった結果、事業者の数も車両の数も増え、更にはワンコインタクシーなどの登場で、料金がどんどん安くなってきたということが再規制推進側の背景にあります。

過当競争の結果、特に大都市周辺地域において、タクシー会社の収益基盤が悪化したり、運転手の賃金等の労働条件が悪化したりするという問題が発生しました。そうすると、労働条件が悪化した運転手が提供するようなサービスでは安全・安心の品質を保てないので、消費者を守る為、安全安心な運送手段を提供するというタクシー業界の使命を果たす為に、規制緩和をやめる、つまり再規制をすべきだという主張です。


■「安かろう、悪かろう」といったサービスが蔓延してきた理由
ただこれは、少し問題の所在というのが十分に把握されていないのではないかと思います。

「安全安心を確保できないような極端に安価なタクシーサービス」が蔓延してきたのは、競争が激しくなったからという点によりも、我々利用者がタクシーのサービス品質というものを十分に判断出来ないという点にそもそも問題があるのではないかと考えます。

世の中にある様々な商品やサービスには、異なる品質の水準に応じて異なる水準の料金が設定されているケースが多々あります。我々は普段そういったものを購入する時に、自分の懐具合と要求する品質とサービスを考えてその様々なバリエーションの中から最適な選択をしています。その時に選択基準のベースとなるのは「品質が高い物は値段も高い」、「安い物は低品質」あるいは「安価なものには何らかの理由がある」という健全な考え方です。

そういった場合、通常予想される値段よりも安い値段で提供されているようなサービスには、我々はその分の注意を払い、低料金の理由に納得したうえで初めて財布を開くべきです。


品質情報の開示
それに対してタクシーの場合、往々にして我々は客待ちの列の先頭にいる車や、あるいは街角でたまたま出くわした車に乗ることになります。しかし、乗り込むにあたって利用者に提供される情報は、後部座席の窓に表示してある料金水準のみで、サービス、特にその運転手さんがどの程度の安全・安心なサービスを提供するのかといった情報は得られません。

そのため、タクシー業界の競争は「価格水準」のみを武器として展開されることになり、つまるところ「品質を犠牲にした安値競争」に陥りました。

そういった状況を改善するのは、競争をやめるよりもむしろ正確な品質情報の開示であり、消費者に対して価格と品質のバランスの中できちんと選択してもらうことを可能にすることだと思います。例えば、独立の第三者機関が料金水準と運転手の事故履歴、あるいはその運転手に関する口コミなどをデータベース化し、タクシーの一台一台にバーコードをつけ、スマホで読み取れるようなシステムを導入することが考えられます。

タクシーの品質というものを消費者としてきちんと理解出来るようになれば、タクシー業界の側からすれば高品質にするのに少々コストがかかったとしても、それをきちんと周知し消費者が納得のいく普通より高い料金水準を設定することが出来ます。安全安心や快適性を重視する人がそういったタクシーを主として利用することになれば、それによってタクシー運転手の収入も増えて待遇改善も成し遂げられます。

結果として、利用者にとっては高品質で少し余分な料金を払うサービスと、安いがちょっと快適性に劣るサービスといった、タクシーサービスの利用にあたっての選択肢が増えることになります。

■まとめ
全てを競争とか規制緩和のせいだけにするのはそろそろやめた方が良いでしょう。

今朝のキーワードは「安物買いの銭失い」です。

私たちは気軽にタクシーに乗っていますが、命を預けていることなので、ちゃんと品質を認識した上で乗るべきであり、そのためにはタクシー会社が情報開示の努力をさらにすべきだろうと思います。競争自体に反対するのは筋違いです。

分野: 経済予測 |スピーカー: 実積寿也

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