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第8回 金融危機

塚崎公義 経済予測、経済事情、日本経済、経済学

12/07/06

今日は、金融危機について、御話ししましょう。金融危機とは、バブルが崩壊した後などに、多くの銀行が潰れそうになったり、実際に潰れたりすることです。

自己資本という言葉は御存知でしょうか。銀行のバランスシートの右下部分ですね。別の言い方をすると、銀行が株券を売って集めたおカネと、これまで貯めて来た過去の利益の合計額の事です。

銀行の不良債権が増え、回収額が減って来ると、銀行が赤字になり、その分だけ貯めて来た利益額が減りますから、自己資本が減ります。

さて、細かい事を省いて大枠だけを御説明しますと、銀行には、自己資本比率規制というものがあって、自己資本の12.5倍しか貸出をしてはいけないことになっているのです。したがって、銀行の自己資本額が減ると、貸出できる金額が大きく減る事になります。

金庫におカネがあるのに、健全な会社から借入の申込があるのに、貸してはいけないのです。これが銀行の貸し渋りです。借り手から見れば、たまったものではありません。自分の会社には何も問題がないのに、銀行から借入ができず、材料を仕入れる事が出来ずに倒産してしまう、といった事がおきかねないのです。これにより、景気は更に悪くなります。

貸し渋りをされた企業が銀行を恨むのはわかりますが、銀行もつらいのです。貸したいけれど、自己資本の12.5倍しかかせないという規則があるから貸せないのです。元銀行員の私が申し上げても、言い訳に聞こえてしまうかもしれませんが、是非、御理解いただきたいと思います。なお、銀行が貸し渋りをしていたのは過去の話で、今は銀行は自己資本が充分ありますから、貸し渋りはしていないはずです。

さて、銀行が貸し渋りをすると、景気が悪くなりますから、政府としては、銀行に貸し渋りを止めさせる必要があります。そのためには、減ってしまった銀行の自己資本を元に戻す必要があります。しかし、バブルが崩壊したような時期に、銀行が増資をして一般の人々に株式を購入してもらう事は、簡単ではありません。そこで、政府が銀行の増資を引き受ける必要が出てきます。一般に公的資金の注入と呼ばれるものです。

政府が銀行に公的資金を注入すれば、銀行が貸し渋りをする必要がなくなりますから、中小企業が融資を受けられるようになります。公的資金の注入により助かるのは、中小企業です。そのために国民の税金を使うのは、政策としては正しい政策です。しかし、政治家が反対するため、注入は簡単ではありません。実際、日本でもアメリカでも、政治家の反対で公的資金の注入には大分手間取りました。

政治家が反対するのは、「国民の税金で銀行を助けるなんてケシカラン」といって世論が反対するからです。銀行に対する規制については、一般の人々は詳しく知らないでしょうから、銀行のために税金を使うと思われてしまうのです。銀行に貸し渋りを受けている中小企業は、銀行の事を快く思っていませんから、公的資金注入に反対するのです。

たしかイソップ童話に、口だけが美味しいものを食べるのはズルイと言って、手が口に食べ物を運ばなくなる話があったと思いますが、これと似たような事が起きてしまうわけです。

さて、金融危機が更に悪化するとどうなるでしょうか。銀行が潰れるという噂が広まると、預金者が一斉に預金をおろしにいき、銀行の金庫が空っぽになってしまうかもしれません。これを預金の取り付け騒ぎと呼びます。もっとも、実際にこうした事が起きた例は多くありません。

実際に起きるのは、銀行同士の貸し借りが止まってしまう事です。銀行同士は、御互いに巨額の貸し借りをしているのですが、御互いに相手が潰れるかもしれないと思うと、これが止まり、大変な事が起きます。

他行から借りている銀行は、返すためにおカネが必要ですから、御客さんに貸してある資金を回収することになります。他行に貸している銀行は、金庫には充分おカネがあるのですが、それでも企業への貸出は増やしません。万が一の時に備えて、金庫に札束が山積みになっていないと不安で仕方ないからです。こうして銀行が一斉に貸出を回収すると、倒産が増加し、景気には大きなマイナスとなります。

金融は、血液と同じで、普段はあまり意識されていませんが、ひとたび止まってしまうと大変な悪影響を経済全体に及ぼすのです。どこか一か所が詰まると全体の流れが止まってしまう所も血液と似ていますね。

そこで、政府は「銀行は潰さないから、銀行同士で安心して貸し借りするように」と宣言し、日銀は「おカネはいくらでも貸すから借りにきなさい」と宣言することになります。こうしてようやく金融危機による悪影響が緩和されていくことになるのです。

今日のキーワードは「金融は経済の血液だ」です。

分野: 経済予測 |スピーカー: 塚崎公義

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