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日本の国際収支1(ファイナンシャルマネジメント/平松拓)

11/12/27

今回は日本の国際収支を採り上げます。

2011年になって、日本の国際収支が話題になることが多くなってきました。という
のも、「貿易・サービス収支」が9月迄で1兆9千億円弱の赤字となっており、2011年は
暦年ベース、年度ベース共に赤字になる可能性が否定できない状況だからです。
もし、暦年、或いは年度で年間を通じて赤字化すると、これはリーマンショックの
あった2008年度以来のことですが、それ以前では第二次石油ショックの直後に遡る
ことになり、1980年度以降で2回目の出来事です。

今年は欧州の経済危機に明け、震災でサプライチェーンが断絶したことによる生産
の停止、海外での食料品を始めとした日本製品輸入規制といったことの影響を強く
受けているため、これらの一時的な影響を慎重に見極める必要があります。しかし、
昨年来の円高の影響もあって企業の海外進出が相次いでいることを根拠に、「貿易
収支」黒字の減少や赤字化傾向が定着化し、急速な国際収支の悪化に向かうという
見方があります。

現に11月、経済産業省は国家戦略会議(議長・野田首相)に対して、「産業空洞化が
続けば2010年代半ばまでに貿易赤字に転落する恐れがある」とするリスクシナリオを
示しました。そこでは、現行の円高の水準が続けば「素材産業を含めサプライチェーン
全体が急激に海外移転して、2010年代半ばには貿易赤字に転落する」可能性を示唆
し、更に2010年代の後半には「経常収支」も赤字に転落する可能性を示唆したと伝え
られています。

ここで「貿易収支」を含む、国際収支統計はどのような構成になっているか押さえて
おきましょう。財やサービスの貿易に係る「貿易・サービス収支」と、海外資産の運用
益の受払や短期の外国人労働に対する報酬などによる「所得収支」、そして無償援助
や郷里送金など対価を伴わない資金取引からなる「経常移転収支」、これらを合わせた
ものが「経常収支」で、基本的にはこの収支尻は海外への投資や海外からの資金の
採り入れによって調整され、その反対の動きが「資本収支」に現れる形となっています。

これまで日本は「サービス収支」は赤字できましたが、「貿易収支」の黒字が大きく、
「貿易・サービス収支」についても大幅な黒字を計上してきています。そしてこの
「貿易・サービス収支」の大幅な黒字が「経常収支」を黒字化し、その結果、わが国
の対外純資産(わが国が海外に持つ資産から諸外国がわが国に持つ資産を控除した
もの)が積み上がることで、海外資産の運用収入の受払である「所得収支」も黒字化
して、経常黒字が更に大幅なものとなっていました。わが国の対外純資産の大きさは
3兆ドルを超しており、これは世界一の大きさです。

ところが、こうした流れが急速に変化して、5年程度で「貿易収支」の赤字が定着して、
それが拡大することによって海外資産の運用益の受払である「所得収支」の黒字も
呑み込んでしまい、10年たたない間に「経常収支」も赤字に転落する。こういう見方
がリスクシナリオにせよ政府内に存在する訳です。

確かに日本の「貿易・サービス収支」の黒字が最大だった1986年と比較すると、震災
前の2010年迄の24年間に輸出の伸びは1.9倍に留まったのに対して、輸入は3.2倍に
伸びており、結果として黒字は60%縮小しています。特にリーマンショックの直前の
2007年と比較すると、僅か3年間で黒字が40%以上縮小していることも、急速な
「貿易・サービス収支」の悪化との印象を与えます。

このように日本の国際収支について、流れが変わりつつあると考えることは可能な
状況ではありますが、国際収支を議論する場合に気を付けないといけないのは、輸出
の維持とか経常収支の黒字の維持がやや自己目的化したような形で議論がなされがち
だと言うことです。国際収支のメカニズムから言えば、世界に「経常収支」の黒字国
があれば、一方で必ず赤字の国がある訳です。もちろん雇用の維持は重要ですが、
日本が経常黒字で支えている雇用があるとしたら、その反対側には赤字で雇用が
奪われている国が存在する訳です。

何が日本経済を進化させるために重要なのか、その為に問われる政策目的は何なのか、
こうした面で、最近の為替介入、FTAやTPPの議論など、もう少し広い視点で考えてみる
必要があるかもしれません。

分野: 平松拓教授 |スピーカー:

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