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IFRSの特徴と問題点 (財務会計/岩崎 勇)

11/10/21

前回は、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards: IFRS)の
概念フレームワークに関連した会計目的の概要をお話ししました。
今回は、より具体的にIFRSの会計目的の内容及び問題点についてお話していきたいと思います。


■利用者の視点へ
IFRSの概念フレームワークには、旧版と新版があります。

このうち、旧版では「財務諸表の目的」という表現が用いられていましたが、
新版では「財務報告の目的」という表記に変わっています。
これは、従来の概念的枠組みが、
財務諸表の作成者である企業の視点からのものとなっていましたが、
新しい概念的枠組みでは、
視点が財務諸表を意思決定に用いる利用者である市場の観点に移っているからです。
この視点の違いが特徴の一つです。

また、意思決定目的と利害調整目的という二つの目的に区分し、
前者のみをその目的としていることも特徴の一つです。
前回もお話ししたように、配当や税金などの利害調整は、
各国の法律に基づいて行うことを想定しおり、IFRSは関知していません。
つまり、IFRSは、利害調整目的を直接その目的とせず、意思決定目的のみを規定しているのです。


■受託責任の変化
また、意思決定目的と受託責任目的も新旧の概念フレームワークでは、
その取扱いが変わっています。
すなわち、受託責任(stewardship)では、委託者から財産の受託を受けた受託者は、
その財産をきちんと管理運用した結果を財務諸表として受託者に報告しなければなりません。
具体的にいうと、株主は企業に資金を提供していますが、
その資金を経営者がうまく運用して利益を上げて、
株主にどの位配当できるかどうかを報告しなければなりません。
これが受託責任目的です。

これについて、従来の概念フレームワークでは、
受託責任目的と意思決定目的の二つが並列して挙げられていました。
ところが、新しい概念フレームワークには、
受託責任という用語は登場せず、
意思決定に関連させて間接的に「経営者の責任を解除することについての情報もまた、
経営者の行動についての議決権ないしその他の影響力を持つ現在及び潜在的な投資家、
貸手及び債権者による意思決定のために有用である」と述べられているに過ぎません。
このように、受託責任が全体としての意思決定に包摂されるという立場の採用は、
概念フレームワークについての全体の枠組みが、
企業の会計計算及び報告という観点からではなく、
市場あるいは情報利用者の観点に移ったためではないかと解釈できます。

IASBは公正価値会計を推進するために、客観的な計算数値の使用をあまり重視せず、
主観的な見積数値の使用を拡大しています。
そのため、前回もお話ししましたが、
必ずしも継続的な記録によらずとも期末の資産を時価評価して使うというように、
意思決定に有用であればどのような数値でも使えるようにしているのです。
受託責任も、利害調整と同じように継続記録を必要としているため、
有用性を重視してこのように解釈が変わったのではないかと思います。

また、企業価値については、株主が企業価値を評価する上で、
有用な情報を提供するというシステムになっています。
そのため、以前は、業績予想や企業価値評価がやりやすいように、
損益計算書上の過去の実現利益である純利益を中心とした、
企業価値の推定に役立つ会計情報提供が行われていました。
しかし、新しいIFRSでは、貸借対照表から企業価値を、
直接的に評価していこうという方針に変わっているように考えられます。


■IFRSの問題点
このように、受託責任という用語を削除し、意思決定の部分に含めることは、
大きな問題ではないかと思います。
言い換えれば、これは、継続的な取引をベースとした継続記録、
つまり従来の簿記的要素を排除しようとする傾向を助長するものともいえます。

しかし、これは実のところコーポレートガバナンスとは徹底的に矛盾しています。
IFRSでは、公正価値会計(fair value accounting)を指向していますが、
この公正価値会計の背景にある金融資本主義は、
2008年のリーマンショックで既に破綻しています。
現在、IASBは公正価値会計に向けて突き進んでいますが、
受託責任を重視するような、従来の取引をベースとした、
会計の全体的な枠組を作った方がよいのではないかと思います。

また、企業の会計主体論からも問題点を指摘できます。
会計主体論では、「企業は誰のものか」ということが問題の中心となります。
従来は、企業は株主のために存在し、会計は株主の利益を計算しているという考えが中心でした。
商法でも会社法でも、利益が出たらまずは株主に分配されます。
つまり、利益計算では、所有者である株主の利益を計算していることになります。
しかし、新しい概念フレームワークでは、
企業体理論という企業そのものの利益計算をするという立場に変わっています。
確かに、理論的にはこのように考えることも出来ますが、
現実として制度的に考えると少し整合性が欠ける部分があるのではないかと思います。

なお、現在、IFRSへの流れは様々な理由によってやや後退しつつあります。
世界経済の停滞も関係していますが、
その他にもアメリカ、中国、インド等が完全採用を延期していることも関係しています。
我が国においてIFRSを採用するか否かの意思決定は2012年ですが、
上述のような多くの問題点があるIFRSを強制的に完全採用するのではなく、
IFRSを採用したい企業だけがIFRSを採用できるという選択適用が最善の方法ではないかと思います。

分野: 岩崎勇教授 |スピーカー:

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