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欧州政府債務問題 <IMFの新しい専務理事>(平松拓/ファイナンシャルマネジメント)

11/07/27

欧州政府債務問題への対応には、IMFも絡んでいますので、今回はIMFの
話をしましょう。

今般、新しい専務理事として、クリスティーヌ・ラガルド(Christine Lagarde)
さんという、フランスの前財務大臣が選任されました。前任者でフランス人の
ストロス・カーンさんが不祥事で辞任したことで注目された今回のIMF専務
理事人事ですが、引き続きフランス人が選ばれた訳です。世銀の総裁はアメリカ
から、IMF専務理事は欧州からと、戦後60年以上続く慣行がまた破られ
なかったということでも、大きな話題を呼んでいます。

ラガルドさんは、元々アメリカの弁護士事務所に勤めていた弁護士で、経済の
専門家ではありませんが、その交渉力は非常に評価されています。今回の人事
では、経済的にも存在感を増し、国際金融の政府間交渉の表舞台がG7から
G20に変わる中で影響力を強めている、BRICsなど新興国の出方が注目
されました。しかし、メキシコが中銀総裁を単独で専務理事候補としてノミ
ネートしたものの、新興国間でまとまることはできず、中国、ロシアなども
ラガルド女史を支持に回り、結局無風に近い形で選出されました。

もっとも、現状のIMFの投票権が、欧州、アメリカの2つの国・地域で5割
近くに達し、日本が同じく支持を表明すれば数字の上では決まっています。
新興国も団結してもあまり勝ち目のない運動をするよりも、今回は現実的に
個々の国の利益を重視したといえるでしょう。

やや残念だったのは、以前であれば持ち回り人事に対する批判からも、アメリカ、
欧州以外からの候補として、日本人の名前がマスコミ取り沙汰されたのですが、
今回は日本が早々にラガルドさん支持をマスコミも伝えてしまったこともあって、
全く日本人の名前が聞かれずに終わってしまいました。この背景には、IMF
専務理事として推挙できるような人材が見当たらなかったということもある
かもしれませんが、いわゆる先進国と新興国の国際政治・経済における新たな
対立の構図の中で、非欧米としての日本の立ち位置が非常に難しくなっている
ことを示しているという見方もできます。

投票権の50%近くが欧米に占められる中で、それ以外の代表が選ばれるためには、
欧州候補を上回る相当な評価、あるいは相当な支援材料がないと難しいでしょう。
IMFにはこれまで11人の専務理事がいますが、内2人の代行を除くと、9人の専務
理事の内、実に5人がフランス人です。このことが暗に示していると思いますが、
国際政治うごめく欧州では、こうしたポストが、政治的な駆け引きの道具として
極めて重要な意味を持ち、その点では他地域の諸国以上の執着をフランス、ある
いは欧州が持っていることも影響しているでしょう。

あくまでも憶測に過ぎませんが、日本が早々に欧州代表を支持する姿勢を示した
のは、日本も欧州諸国との間で何らかの取引をしたのかも知れません。震災復興
への支援の取り付けや、これまで拒絶されていて震災後に動き出した日欧FTA
協議などが、取引材料だったという見方もできます。

新専務理事に期待されることとしては、人選に絡めてドイツのメルケル首相が、
「今1番大変なのは欧州の債務問題なので、専務理事には欧州人が最もふさわ
しい」という言い方をしていますが、そういう理屈が通るのかどうかは別としても、
新専務理事にとって重要なことはまず炎を吹いている欧州の政府債務問題への
取り組みは間違いないところです。ストロス・カーン前専務理事は、次期
フランス大統領の座を狙っていたといわれており、それ故、今回の欧州債務
問題に対するIMFの対応がアジア通貨危機の時などに比べて、はるかに柔軟
だったのではないかという見方があります。

李下に冠を正さずではないですが、新専務理事は欧州の政府債務問題に根本的な
処理がなされないまま時間を費やすことによって、より深刻な形で世界経済に
波及するリスクに対して、断固とした姿勢を示す必要があると言えるでしょう。

分野: 平松拓教授 |スピーカー:

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