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広告電通賞 (マーケティング/出頭 則行)

11/03/02

今回は、広告電通賞についてのお話です。

広告電通賞は日本で一番権威のある広告賞といわれていますが、
非常にユニークな賞です。
世界の広告賞で有名なものに、カンヌ国際広告祭やワンショーがあります。
また、アジアにもアドフェストという広告賞がありますが、
これらの広告賞は、全てクリエーターや制作会社、
あるいはそれを企画した広告会社に授与される賞です。

ところが、この広告電通賞はなんと広告主に授与されるという大変ユニークな賞なのです。
このような形の賞は、広告電通賞が世界で初めてだともいわれています。
この広告電通賞は1947年に創設されたものですが、
当時の電通社長で、小倉生まれで小倉高校出身の吉田秀雄によって発案されました。
意外と知られていませんが、吉田秀雄は広告界の中興の祖で、
商業放送の父ともいわれていますし、今の電通の礎を築いた人です。
吉田秀雄はお金を出す広告主を顕彰することが、
広告業界にとっては非常に有益だと考えたのではないかと思います。

この賞には電通という名前が付いていますが、
賞の選考は電通と独立して行われており、
広告主の宣伝部長、広告部長、マーケティング部長という人たちや、
ジャーナリストなどの識者、メディアから選ばれた人が選考にあたります。

審査の過程は非常に公正なもので、受賞作は広告会社を問いません。
私は、平成22年度の後期、
九大の経済学部で「マーケティングコミュニケーションとしての広告論」
というタイトルの講義を行いました。
その関係で平成22年度の広告電通賞の全作品群に目を通しました。

この賞には、テレビ部門やラジオ部門、プリントメディア部門、
インターネット部門、キャンペーン部門があり、
それぞれに優秀賞、つまり優秀広告主が選ばれます。
その中で、全体として非常に質の高い広告活動をおこなった企業には、
総合広告電通賞が与えられます。

総合広告電通賞は平成元年からはサントリーとパナソニックがほぼ独占してきました。
従って、多くの部門賞もこの2社が独占してきた感があります。
この広告賞の部門の中でも、テレビ広告が一番脚光を浴びます。
いってみれば、テレビ広告の広告電通賞がクリエーターにとって、
最も取りたい賞だということになります。

平成22年度は、TV広告部門で、アデランスが広告電通賞を、
日本生命が準広告電通賞を受賞しました。
アデランスにしても、日本生命保険にしても、主顧客層は熟年世代です。
広告業界は若者文化の御神輿を担ぐ、と批判されがちな業界でした。

我々も調査の時には、M1やF1のセグメントを重視します。
M1というのはMaleの1という意味で20歳から34歳の男性を指します。
一方、F1はFemaleの1で、20歳から34歳の女性のセグメントです。
このM1、F1がオピニオンリーダーで世の中を引っ張っていくといわれており、
多くの広告キャンペーンもそこにフォーカスを当ててきました。
そのため、広告業界が若者の御先棒を担ぐという批判もあながち間違いではありません。

従って、アデランスと日本生命という熟年層を顧客とする2社の受賞は、
今という時代を物語るものだと思います。
広告産業にも高齢化の波は容赦なく押し寄せており、
顧客のいないところには広告活動も展開されません。
旺盛な顧客があるところに旺盛な広告活動があり、
現在日本で最も旺盛な消費の主体は熟年層ということになります。

しかし、思い返してみると社会現象ともなった
山口百恵「いい日旅立ち」がキャンペーンソングの「ディスカバー・ジャパン」や、
JR東日本の「シンデレラ・エクスプレス」は、
その当時の消費の主役たちに向けて与えられたキャンペーンです。

では、消費の主体が熟年層になった時に、
あのように社会現象を起こすようなキャンペーンは可能なのでしょうか。
広告会社にとってもクリエーターにとっても現在は非常に苛酷な時代といえます。

分野: 出頭則行教授 |スピーカー:

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