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BYDの躍進(イノベーションマネジメント/朱穎)

11/01/24

■電気自動車産業への参入
BYDという中国の会社についてお話しします。この会社はもともと電池メーカーだったのですが、最近は電気自動車を製造・設計していることから大変注目されている、いわゆるアントレプレナーシップ型の自動車メーカーに成長したという面白い会社です。BYDはもともとパソコンや携帯電話向けのリチウムイオン電池を製造、販売する電池メーカーとして1995年に創業し、その後国営自動車メーカーを買収することによって自動車生産に乗り出した。この企業は中国国内で4つの生産基地を持っており、2009年の生産台数は45万台まで突破し、中国自動車マーケットにおいて第6位にまで成長しました。中国の自動車マーケットはご承知の通り欧米系、日系、更に最近民族系メーカーがたくさん参入していまして、とても競争が激しいわけです。その中で最後発メーカーとして参入したBYDが第6位まで成長したというのは、ものすごいその成長ぶりでして、かなり注目されています。

創業者の王伝福総裁は、電気自動車産業への参入を最終的に決断したのは2002年のことだったようです。実際は90年代後半から電気自動車の生産を検討し始めていたのですが、バッテリーの性能が十分ではないという現状があったので、むしろガソリン自動車をまず学習することによって技術を蓄積するような展開の仕方をしてきたわけです。こうした中で最初に発売したガソリン自動車は、F3という銘柄だったのですが、このF3の開発は当初自動車設計のコンサルティング会社にまで依頼しまして、エンジンとかトランスミッションというのを自主開発ではなくてむしろ中国東北部にある三菱自動車系の工場から部品調達したということなのです。そういうわけで、ほとんど自前でやったのではありません。要するにもともとバッテリーを製造、あるいは設計する企業だったので、そもそも自動車を生産するのに必要な知識、更に経験が足りなかったという事情があったと思います。それが今、大きく躍進しようとしているわけです。私はやはりこの企業のビジネスモデルの展開は、非常に速いというのが特徴ではないかと思うのです。今申し上げましたように、アウトソーシングにおいてガソリン自動車を製造し始めていたのですが、その後すばやく内製に切り換えたという1つの変化があったのです。そのために、例えば優秀な技術者をスカウトしたりして、現在1万6千人の自動車設計に従事するエンジニアが働いているという話を聞いております。

■注目のきっかけ
やはり世界でものすごく広く知られるきっかけになったのは、2008年の9月にアメリカの投資家ウォーレン・バフェット(Warren Edward Buffett)が、このBYDの将来性に非常に注目しまして、2億3千万ドルを投資したというのがたくさん報道されたことです。
これは金融危機の直後だったので、ものすごく大きな出来事として、大丈夫かと色々心配されていたのですが、BYDは非常に将来性があるということを判断して投資したようです。現在、バーフェット氏はBYDの10%の株主になったということで、ビル・ゲイツと一緒に深圳(シンセン)にあるBYDの本社を訪れて電気自動車の開発、更に製造現場、色々見学したということで、海外のマスコミでもたくさん報道されたようですね。

■成長の分析
どうしてBYDがそこまで成長してきたのかというのを広く分析しますと、2つの要素があったのではないかと思います。そのうち1つは外部要因です。
まず自動車技術の電動化に伴って、従来刷り合わせ産業として技術の作り込みのようなものづくりのノウハウが必要だったのですが、電気自動車へと変化する時にエンジンとトランスミッションのような複雑な技術がいらないわけですから、当然新規参入の障壁が低下してしまうのです。これは技術の変化によって、当然それまで経験がなかった、あるいは知識もなかった企業にとっては、企業家機会として多いにもたらしたのではないかと思います。

更にやはり面白いのは、同社は電池メーカーから自動車産業に参入するという非常に明白な戦略的意図があったのですね。そのために、例えば技術が足りなかったという制約条件があったのですが、それをアウトソーシングによってコストダウンしたりや色々努力したりすることによって、最初にF3という自動車を発売し、更にその後で内製にうまく切り換えたという、この展開の仕方がとても重要だったと思うのです。要するに企業家機会として発見し、更に発見したことをビジネスモデルまで転写していく、あるいはそのビジネスモデルまで作っていくような努力が非常に重要だったのではないかと思います。

■経験と信頼
ただやはり経験という意味でいうと浅いです。そしてそれに対する信頼というものはどういうふうに生まれて、また成長に繋がっていくのかというところも課題としてあります。
これはよく日本企業から色々指摘がありますが、知的財産権とか技術とか内製が本当に大丈夫なのかということはよくいわれています。ただしこれは、やはり長期的にみないといけないと個人的に思うのです。
実は70年代に日本の自動車メーカーがアメリカに参入した時に全く同じような状況におかれていまして、むしろアメリカの企業から色々指摘されたり非難されたりした時期があったのです。ご承知の通り、非常に速いスピードで信頼性、更に品質というものが世界的なブランドとして構築したという日本の経験からすると、BYDという企業はこれから更に成長していくと思います。そして当然改善しないといけないものがたくさんあるのですが、もっと長期的な目で見ないといけないのではないかと思うのです。

分野: 朱穎准教授 |スピーカー:

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