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久原正治教授一覧

アメリカ報告(3)(経営学/久原正治)

10/10/28

この夏シカゴでの大学で教壇に立って、アメリカの今の経済状況を
肌で感じて来ましたが、意外に大変でした。
従来ならアメリカ経済はもうそろそろ回復しているところなので、
オバマ政権に若干問題があることが明らかになってきました。
あれだけ期待を背負っていたオバマ大統領ですが、今は支持率も落ちて
にっちもさっちもいかない状況になりつつあります。

オバマ自身は、去年お話ししたように、例えば戦争とか金融危機
保守とリベラル、白人と黒人などの対立の軸をうまく中和して
全体を融和する中からチェンジをもたらすということで国民の期待がありました。
ところが金融危機問題があまりに大き過ぎて、融和という形では
問題を解決できないことが明らかになってきました。
政府が思い切った財政支出をやらないと、中途半端なままで経済は回復しない一方で、
政府の財政は悪化しているのではないかという議論があります。
政府が無駄なことにお金を使って、そのことでアメリカ人の自立を失わせて、
財政を悪化させてしまったと左右両方から、オバマは批判されています。

雇用を増やすといいながら、全然回復していません。
アメリカでは雇用の流動性が非常に高いので、景気は失業率にすぐに表れます。
何故失業率が低下しないかというと、企業の経営者はこのさき経済がどうなるか
はっきりしないから、とりあえずコストはどんどんカットしているので
企業の収益は上がっていますが、雇用を増やすような投資をする
という決断に至っていないのです。
それはオバマ政権が将来に対して、きちっと明るい展望を見せていないことがあり、
日本の失われた20年と同じような状況にアメリカも陥るのでないかと言われています。

それからオバマ大統領が就任時に言った、
ウォール街にメスを入れる方も進んでいません。
実はオバマ大統領が選ばれたのは、ウォール街が一番献金してくれたからです。
もともとオバマ大統領は、コロンビア大学を出て、ハーバードのロースクールで
エディターをやっていたという超エリートです。
ですから、ウォール街のエリートからは自分たちの友達のように見られていました。
ところが、国民はウォール街がこの金融危機の張本人だと犯人探しをしているから、
オバマは国民に迎合しウォール街を打とうということで打ってしまいました。
そこで、ウォール街では、オバマは恩知らずだということになり、
民主党への献金が急に減り、共和党に献金するようになりました。
オバマはウォール街から見捨てられてしまったという感じですが、
実はアメリカ経済というのはウォール街が大事なのです。
それなのにウォール街叩きをやるのは、正しいのかなと私は思いますし、
アメリカでは、多くの人がこれは間違っているのではないかと言っています。

金融危機の発端になったウォール街が今までやってきたようなことは、
変えるべきだと、今でもオバマ大統領は思い続けているわけですが、
ただ金融危機の本当の原因はまだ何かはっきりしていません。
ウォール街が確かに行き過ぎたという面はありますが、
ウォール街は昔から強欲でした。1900年頃から100年くらい強欲を続けているから、
今回だけ金融危機の原因というわけでもありません。
更に今回の金融規制法案を見ていると、
単に分厚いだけで根本的な問題の解決には具体的に触れられていなくて、
これから政府機関を作って、そこが細則を定めてやっていくとされています。
そうするとアメリカでは、ルールの抜け穴を探し始めますから、
この法案自体が抜け穴だらけで、表面的にはウォール街を
締め付けるという内容の法案になっています。

そういうことでオバマ大統領に対する評価というのは下がる一方で、
先程申したように、共和・民主両方の支持層から叩かれていますが、
結局政治的な経験不足あるいはリーダーシップが問われ、
当然中間選挙以降苦境が深まっていくと見られています。
既に中間選挙で民主党はかなり議席を減らすことになり、
その後の政権運営に影響が出るでしょう。
アメリカは根本的には小さな政府で、個人の自立という国の原理があるので、
健康保険法案のように国が助けることとは、この原理と矛盾が出てきますから、
個人の自立心でアメリカを立ち直らせるというリーダーシップを打ち立てていかないと
アメリカが没落していくという可能性はなきにしもあらずです。
自立した経済の基礎となるウォール街は活性化させないといけません。
ウォール街の金融がリスクをとって新しいビジネスを作ったり、
経済を活性化させてきたというアメリカの歴史は明らかですから、
そこが弱いままではアメリカの再生はおそらく難しいだろうと思います。

(9月16日収録)

分野: 久原正治教授 |スピーカー:

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