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オープン・イノベーション②(イノベーションマネジメント/永田晃也)

10/09/09

前回は、近年注目を集めている「オープン・イノベーション」について、
その概念と具体的な成功事例を紹介してみました。
オープン・イノベーションとは、提唱者であるヘンリー・チェスブロウによれば、
「企業が自社のビジネスにおいて社外のアイデアを今まで以上に活用し、
未活用の自社のアイデアを今まで以上に他社に活用してもらうこと」を意味しています。
しかし、このような定義は、イノベーションのパターンを示したものに過ぎず、
そこには「何をオープンにすべきか」、「どのような場合にオープンにすべきか」、
「どの程度オープンにすべきか」といった具体的な質問に答えられるような理論がないと、
指摘しました。
今回は、これらの質問について考えてみたいと思います。

イノベーション・プロセスをオープン化する際の条件を、
私は技術的要因、組織内要因、外部環境要因の3点に亘って検討してみてはどうかと考えています。

まず、技術的要因ですが、ある製品のイノベーション・プロセスが、
そもそもオープン戦略に適合的であるか否かは、
その製品のアーキテクチャという技術的特性に依存していると考えられます。
製品アーキテクチャについては、以前この番組の中でもお話しましたが、
製品の基本的な設計思想を言います。藤本隆宏さんによれば、
製品アーキテクチャは、部品設計の相互依存度と、
部品間インターフェースの標準化の程度によって分類されます。
ある製品全体の性能の良し悪しが、部品のつなぎ方(インターフェース)に大きく左右され、
そのつなぎ方の仕様が企業内部で閉じられている製品アーキテクチャは、
「クローズド・インテグラル」型と呼ばれています。
このようなアーキテクチャを持つ製品の開発は、
企業の境界を超えて展開することが困難ですから、
オープン・イノベーションの機会は非常に制約されるでしょう。
他方、部品相互の独立性が強く、
かつ部品間インターフェースが標準化されている製品アーキテクチャもあります。
この「オープン・モジュラー型」と呼ばれるアーキテクチャの場合は、
オープン・イノベーションの機会が豊富に存在すると考えられます。

つぎに、組織内要因ですが、これはオープン・イノベーションを遂行するために
必要となる組織的な能力が、企業内部に蓄積されているかどうかという要件です。
ここで言う組織能力は、イノベーションに不可欠な経営資源として機能するものです。
それは、専門化された技術的な能力の他、
多様な専門的能力をイノベーションに向けて組み合わせていく能力、
統合能力と呼ばれるものからなっています。
特にオープン・イノベーションを遂行するためには、
社外にある知識やアイデアを経営資源として
統合していく組織能力が決定的に重要となります。
そのような組織能力そのものは、市場取引などを通じて社外から調達することができず、
経験的に蓄積される性格を持っています。だからこそ、いったん蓄積された組織能力は、
持続的な競争優位の源泉となる可能性がありますが、
そのような組織能力を保有していくためには、相当の管理コストがかかります。
つまり、そのコスト負担に見合った収益が期待できるイノベーションには、
オープン化が適合的な戦略となると言えるでしょう。

第3の条件は、外部環境要因です。
ここでは、イノベーションに必要な諸資源を仲介する市場が
十分に存在しているかどうかが問われます。
前回、オープン・イノベーションの成功事例として取り上げた
P&Gのコネクト・アンド・ディベロップ戦略では、
問題を抱える企業と解決策を提供できる企業や大学等の組織
あるいは個人を引き合わせるサービスをビジネスとしている企業の存在が、
重要な役割を果たしたことが知られています。
P&Gは、仲介サービスを提供する企業の設立にも関与してきました。
そのような仲介サービスが十分に活用できる環境にない場合、
オープン化は外部資源の探索に要する巨額のコストを伴う可能性が高くなるため、
適合的な戦略とは言えないでしょう。

以上、三つの観点からオープン・イノベーションが成立する条件について述べてみましたが、
それらの条件は、「何を」「どのような場合に」オープンにすべきかという問に関連しています。
最後に「どの程度オープンにすべきか」という問に関連して、
日本企業におけるオープン・イノベーションの可能性について触れておきたいことがあります。
日本の製造業の中でも国際的な競争優位を有する業種は、
前述のクローズド・インテグラル型アーキテクチャが
支配的な自動車産業に代表される業種とされてきました。
しかし、この業種の製品アーキテクチャは企業内部に閉じられているというよりも、
むしろ企業グループという中間組織の中で開かれた特性、
半ば開かれた特性を持っていると言えます。
それは、オープン(市場取引)か、クローズド(内部統合)かという
二者択一に限定されない戦略オプションを示唆しています。
企業グループのような中間組織では、
オープン化の程度が統制されたオープン・イノベーションが成立します。
製品アーキテクチャがインテグラル型で、仲介市場が未成熟な環境の下では、
「統制されたオープン・イノベーション」が戦略オプションとなり得るのです。
中間組織の中で統合能力を蓄積してきた日本企業ならば、
その組織能力を活用する方向でオープン化の可能性を探索してはどうでしょうか。

分野: 永田晃也教授 |スピーカー:

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