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円高の日本企業への影響について(ファイナンシャルマネジメント/平松拓)

10/09/30

円高になると決まって、1ドルの円高で数十億円の減益とか、
海外現地生産を進めたので円高にも耐えうる事業内容とか、
企業の為替相場変動による影響に関する報道が増えます。そのことは
企業がそれだけ為替リスクに晒され、また、対応を迫られていることを
示しているといえます。

それでは企業は一体、どのような形で為替リスクを抱え、
それをマネージしているのでしょうか?
グローバル化した経済の中で、企業にとって為替リスクは
様々な形で存在します。しかし、ここでは大きな意味で
3つに大別して考えます。それは、①会計上の換算リスク、
②外貨建て取引リスク、③企業の経済性リスク―――の3つです。

第一の会計上の換算リスクは、企業の財務諸表に計上される
外貨建ての資産・負債の評価金額が、為替相場の変動によって
増減することで会計上の利益や損失が影響を受けることを意味します。
つまり、外貨建て取引は会計上、取引発生時の為替相場による円換算金額で
一旦記帳され、決算時にはその時点の為替相場で改めて円換算が行われ、
その差額が為替差損益として計上されることになっています。
キャッシュフローに影響するのは飽くまで実際に円転・或いは円投の形で
決済した時点ですが、見掛け上とはいえ決算時の損益に影響を与える結果となります。

第二の外貨建て取引リスクとは、外貨建て取引に伴って発生する
外貨建債権・債務の円換算額が、決済時点の為替相場の変動によって
増加したり、減少したりするもので、こちらはキャッシュフローに影響します。
また、より広い意味では必ずしも外貨建ての契約の場合に限りません。
円建ての契約でも、為替相場が円高に振れたような場合には
相手側から契約価格から値引きを求められることが考えられます。
こうしたリスクなども含めて考えることができます。

第三の企業の経済性リスクは、以上の2つのリスクのように、
企業が既に契約済みの取引についてその経済的効果が影響を受けるのとは違い、
企業が今後行おうとする取引について、競争力や収益性に
影響が生じるリスクのことです。
具体的には、為替相場が強くなった国の企業は海外企業に対して
価格競争力を失うため、ビジネスを諦めるか収益性が悪化するのを
覚悟しなければならないようなリスクのことです。いずれにしろ、
「企業の収益構造に係るリスク」ともいえます。
例えば、日本の造船業は長年に亘って韓国と世界一の座を争って
きましたが、その優劣を決する大きな要因として、為替相場の問題が
横たわってきました。円高の時には日本の造船は苦境に陥り、
円安の時にはシェアを回復するといった具合です。

それではこうしたリスクに対し、企業はどのように対処しているでしょうか?
第一の会計上の換算リスクは非常に技術的な問題であり、また、
国際会計基準との収斂など、制度面でも動いている面であり、
対処法といっても一概には言えることはありません。
寧ろ、為替の面に限らず時価会計基準の採用が増える中で、
企業がこうした評価リスクに晒される部分は増える方向にあると言えます。

第二の外貨取引リスクについては、為替リスク・ヘッジの手段があります。
つまり、外貨建債権・債務の円転・円投額をあらかじめ確定してしまう
方法です。良く知られているものとしては、為替先物予約、或いは良く
似たもので先渡し予約があります。先物予約は取引所で取引されますが、
テレビなどでディーラーが登場して電話やマイクで取引しているのは
インターバンク(銀行間)で行われる先渡し取引です。
その他にも、一定の為替相場で円投・円転する権利を売買する
為替オプションや、外貨建債権・債務と円建て債権・債務を交換してしまう
通貨スワップといった派生商品も用いられます。

第三の企業の経済性リスクについては、構造的な問題であるだけに、
小手先の対応策はないことが問題です。国内で人件費や諸々のコストを
できるだけ抑える涙ぐましい努力や、原材料や部品の海外調達を増やすことで
経済性の悪化を一部相殺するといった対応が採られますが、根本的には
生産の一部を海外に移さねば解決しない面があります。

海外移転を含めたこれらの対応策を採ることにより、企業としての
ミクロ的な対応は採られたことになりますが、コスト削減や
原材料・部品の海外調達、生産の海外移転により、国内の雇用の機会が
失われるというマクロ面の問題は残されることになります。
個々の企業が技術力、製品品質を磨き、価格優位だけでなく
製品差別化を実現することで、こうした面についても抵抗力を
つけることが望まれますが、個別企業の対応には限界があります。

企業に対応のための時間的余裕を与えるために、急激な為替変動を
抑制するような金融・為替政策、或いはより根本的な産業政策など、
行政が重要な役割を担うべき部分といえます。

分野: 平松拓教授 |スピーカー:

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