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政府の財務 (財務戦略/村藤 功)

10/08/27

よく誤解されていますが、日本全体の財務と政府の財務は違うものです。
日本と言うと、政府だけでなくて、事業会社、銀行や、家計を含みます。
政府の中にも中央政府と地方政府があります。
中央政府の財務と地方政府の財務を比べると中央政府の方が地方政府よりも酷いのですが、
今や中央政府と地方政府の両方を合わせても債務超過に陥っています。

今回は、特に中央政府の財務の現状についてお話しします。


■政府の危機的財務
中央政府の財務が非常に危ない常態にあるということが明らかとなってきている中で、
どうやってこれを再建させていくのかということについて、皆が悩んでいます。
よく言われている、2010年度末時点での国民一人当たりの中央政府の借金は、
帳簿上では約760万円ですが、年金や不良債権の引き当て不足等を含めて、
時価に直すと約1000万円にのぼる見込みです。

一方で、一時期かなり下がっていた国債の格付けも、ここ数年は回復基調にありましたが、
2010年1月にS&Pやムーディーズが評価を再び引き下げられています。
現在、国債や借入金、政府短期証券を合わせた、
国(中央政府)の借金総額は約1000兆円にのぼります。

財務省は5、6年前から国の連結貸借対照表を作成していますが、
それによると現状では約300兆円の債務超過です。
この連結貸借対照表は、一般会計、特別会計、それから独立行政法人のような傘下の法人を、
全て連結したものですが、例年では8月に公表されます。
しかし、2010年は7ヶ月前倒しして1月に公表しており、
財務省でも危機感は段々と増してきているようです。

財務省は日本の貸借対照表をあまり参照していないようですが、
ストックだけでなくフローでも赤字となり、危ないということは分かっているという状況です。


■消費税の増税
今の政府セクターの財務を再建するためには、
経済成長か消費税の増税しかないという官僚の説明を受けて、
その気になった菅首相は、参議院選挙前に唐突に消費税の増税を口にしました。
結果として国民の反感を買ってしまいましたが、私が常々申し上げているように、
国有資産の売却や、公営事業の民営化など、
財政再建のために出来ることは他にも山のようにあります。
そういうことを考えずに、消費税と言ってしまったために、
菅首相に対して国民は怒ったのではないかと思います。

自民党でも以前から、財政再建のためには、
税収を増やすしかないという声が与謝野氏を中心に出ていました。
実際にはそれだけでは再建は出来ませんが、
とりあえず財政を維持するためには、10兆円くらいが必要となります。

消費税1%で2兆円の増収となるため、10兆円を捻出するためには、
消費税を5%くらい上げなければいけません。
しかし、家計の貯蓄は10兆円を切っているため、消費税が10%になると、
家計の貯蓄がマイナスになってしまいます。
銀行が国債を購入する資金は、銀行に預けられた家計の貯蓄です。
その肝心の家計の貯蓄がマイナスになってしまうと、
国債を追加発行しても買い手がいないということになってしまいます。

家計の貯蓄をマイナスするような政策をとっても、いいことはありません。
そういう意味では、消費税をいずれ上げなければいけないという認識は全くの誤りだといえます。


■社会福祉事業の民営化
財政再建のために出来る事は色々とあります。その一つが公共事業の民営化ですが、
年金や健康保険、介護保険といった社会福祉事業も民営化は可能です。
菅首相は社会福祉事業を成長させると打ち出していますが、
国が全部独占してやると、お金が足りなくなった場合に、それが税金から賄われることになります。

しかし、規制緩和をして、国と民間企業で社会福祉をやっていけば、
社会福祉市場が成長しても全く問題ありません。

社会福祉が成長するのは分かりきっていますから、
社会福祉の大元を絶対民にやらせないで官だけでやるという方針を捨てて、
規制緩和して官と民と両方で成長する社会福祉を支えるという形にしない限り、
財政再建は難しくなります。


■政府資産売却
そもそも、財務が悪化して破綻しそうな時に、
売上を増やして建て直すというような悠長な話は民間企業ではあり得ない話です。
民間企業であれば、財務が苦しくなれば、
保有している資産や事業を売却するといったところから再建に着手します。

ところが、政府の資産売却をみてみると、かつては4000億円くらいあった売却額も、
2009年度は1000億円を切っています。
売却資産が遊休不動産だけであるためこのようなことになっているのです。
もともと国有地は40兆円程度しかありません。

一方、国の投融資は、有価証券が224兆円、貸付金が193兆円と400兆円近くにのぼります。
投融資の多くは公営企業や公的金融機関に対するものであるため、
投融資の処分は公営事業や公的金融機関の民営化を伴いますが、
民営化をすれば数百兆円単位で有利子負債の削減が可能です。

また、外国為替特別会計には、政府短期証券を発行して調達した100兆円、
約30兆円の現預金、ドル国債を中心とした有価証券90兆円の資産があります。

円安が円高になると、輸出製品の価格が上がってしまうため、
日本の輸出産業の競争力がなくなってしまいます。
円高を円安にするために、外為特別会計でドルを購入していますが、
ドル高の時にドルを売ることができなかったためドルを百兆近く保有しているわけです。
円高に介入するために、現金は必要ですが、ドル資産は不要です。

現在の残高は過去の経緯でドル高時の処分に失敗して持っているだけです。
100兆円位のドルを保有して円高を迎えたため、政府は約10兆円の損失を出してしまいました。
今回の円高局面で100兆円使って円安を守っているわけでは全くありません。
先進国の中で為替市場に介入している国は日本だけです。
また、介入するにしても、規模を3分の1くらいにすれば、そこから数十兆円お金が出てきます。
現状としては、為替市場に介入するにしても、ドルの持ち過ぎです。


■大きな政府から小さな政府へ
外為特会と財政投融資特会の2つだけでも、外為特会が約100円、
財政投融資の特別会計が約300兆円にのぼり、
これを縮小すれば、簡単に数十兆円は出てきます。
この2つの特別会計は財務省主管ですが、事業仕分けも財務省が主導しているため、
この2つの会計は手をつけられていません。

財務省と戦うと2011年度予算が作れなくなるかもしれないので、
民主党は財務省と戦えないのではないかという疑いがあります。
仮に2010年秋に財務省と腹を決めて戦うということになれば、簡単に数十兆円は出てきます。

そういう意味では、いくらでも方法はあるにも関わらず、
やりたくないのでやっていないという状況です。

大きな政府では、国民のお金が政府セクターに回ってしまい、
民間セクターが小さくなってしまいます。
これを「クラウディングアウト(crowding out)」といいますが、
大きな政府を小さくしても、その小さくなった部分は民間セクターが引き継ぐため、
無くなってしまうということではありません。

大きな政府を小さくするということに、一度は小泉元首相が着手しましたが、
始めてすぐに辞めてしまいました。
その後に、自民党も民主党も大きな政府で政策をやっているということが、
最大の問題だと思います。

分野: 村藤功教授 |スピーカー:

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