QTnet モーニングビジネススクール

QTnet
モーニングビジネススクールWeb版

FM FUKUOKAで放送中「QTnet モーニングビジネススクール」オンエア内容をWeb版でご覧いただけます。
ポッドキャスティングやブログで毎日のオンエア内容をチェック!

PODCASTING RSSで登録 PODCASTING iTunesで登録

村藤功教授一覧

会計の現状 (財務戦略/村藤 功)

10/08/06

この番組でも何度かお話していますが(2009年4月17日放送分)、
日本独自の会計基準をあらためて、
ヨーロッパの国々が中心となって作成した国際会計基準を採用しようという動きがあります。
今日はこの国際会計基準の導入についてお話しします。


■国際会計基準の義務化
ヨーロッパでユーロボンドという社債を発行するとか、アメリカで株式上場するというように、
色々な地域のお金が色々な地域の企業に投資される場合に、
それぞれの国や地域の会計基準を使っていると、お互いの比較は難しくなりますし、
時には何をいっているのか分からなくなってしまいます。

今やグローバル化も進み、国ごとに別々の会計基準でやるのはもう時代遅れだということで、
誰が見ても分かるようにすることを目的に国際会計基準が出てきました。
それが次第に賛同者を集め、現在では100ヵ国以上が採用しています。
アメリカや日本としては、自国の会計基準を使い続けたかったようですが、
あまりにも多くの国が国際会計基準を採用しているために、
自国の基準から国際会計基準に合わせるという方に向かっている状況です。

国際会計基準は日本でも2010年3月期から任意での適用が可能となります。
例えば、住商や日産は2011年3月期から、JTは2012年3月期からそれぞれ適用する方針です。


■包括利益
金融庁の企業会計審議会は、
2015年または2016年に上場企業の連結決算において、
国際会計基準を義務化するかどうかを2012年に最終決定する方針です。
そのため、国際会計基準が義務化され、
日本の会計基準が廃止されるという可能性もかなり現実味を帯びてきています。

国際会計基準を導入すると、損益計算書の書き方も変わってきます。
日本基準では、ある期の企業のパフォーマンスをみる場合、
売上から始まり当期利益で終わっていました。

ところが、2011年3月期から上場企業に包括利益の開示が義務付けられます。
そのため、当期利益の後に包括利益の欄が加わることになります。
包括利益には、資産負債の市場価格の変動が反映されます。
今までの日本基準では、投資や融資について、帳簿に記載されている金額と、
マーケットで取引されている金額が変わった場合には、
変動した金額を自己資本の部分で表示するのみでした。

しかし、2011年3月期からは、損益計算書の中で、
売上や営業利益についての損益だけでなく、資産や負債の時価の変動分も含めて、
包括して損益を表示することになります。


■マネジメント・アプローチ
他にも、日本の会計基準と国際会計基準には大きな違いがいくつもあります。
これらの異なる部分について、日本は一気に変えるのではなく、
漸進的に国際会計基準に近づけていくコンバージェンスを行っています。

2010年度はコンバージェンスの一環として、マネジメント・アプローチが採用されます。
具体的には、これまで経理部が実際に存在する内部組織と、
全く無関係に勝手に決めていた連結のセグメント開示の区分が、
社内組織区分に基づいたものに変わります。

セグメント会計とは、企業が複数の事業をやっている場合に、
その複数の事業の結果がどうだったのかを開示するものです。
こうなると、どこの組織が利益を稼ぎ、どこの組織が損したという、
事業別の損益や責任体制が分かるようになります。
例えば、株主総会やアナリスト・ミーティングの場で、
今までは内訳が分からないために社長や財務部長が説明していたものが、
これからは事業本部長が直接出ていって赤字だった場合にはその理由を説明することになり、
結構大変なことになってしまいます。
今まで内部の人しか知らなかった事業組織別の内訳が、
外からでも分かるようになるということで、
会社の内の人たちからすると勘弁してくれという状況です。

責任の所在もはっきり分かることになるため、
今までのように日本的経営で何となくやる、ということも出来なくなります。


■在庫評価
在庫の評価も方法が変わります。

在庫評価の方法として、
後に入ってきた商品を先に出す方法の後入れ先出し法(LIFO: last-in, first-out)や、
先に入っていたものを先に出す方式の先入れ先出し法(FIFO: first-in, first-out)、
あるいは過去に買ったものの平均値で計算する総平均法といった色々なやり方があります。

日本では多くの企業が原材料や製品の価格上昇を前提としたLIFOを取っていました。
LIFOでは最後にきたものを最初に出すことになり、最初に買ったものはそのまま残ることになります。

そのため、LIFOでは価格上昇の場合に在庫の含み益が累積していくこということがありました。
しかし、価格は上昇することもあれば低下することもあります。
価格が低下するときにLIFOを使うと含み損が蓄積されて不健全なことになります。
国際会計基準ではこのような事態を回避するためにLIFOを認めていません。

日本でも2011年3月期からLIFOが認められなくなるため、
多くの企業は総平均法に変更することになりました。
この結果、在庫評価は市況変動に影響されやすくなります。


■アメリカ財務会計基準
会計基準の変更で特に困っているのが、アメリカに上場している日本の大企業です。
アメリカに上場する企業は、アメリカの投資家に分かるように、
アメリカの会計基準を適用しなければなりません。
将来的には、アメリカは自国の会計基準から国際会計基準へ、
移行する可能性が高いといわれています。

日本企業からすると、アメリカの会計基準に変えた途端に国際会計基準にしろということで、
会計基準を2回も変えなければならないことになりますが、
アメリカの会計基準と国際会計基準が対立を深めており、
最後でアメリカの会計基準移行は破綻するのではないかという見方も一部であります。

アメリカが折れて国際会計基準になると日本はノーチョイスで国際会計基準にいきますが、
逆に、アメリカの会計基準変更が破談になった時に、
アメリカの日本企業が国際会計基準をとるのか、アメリカ基準をとるのか、
ということはあまりみえてきません。

しかし、国際会計基準に変更することになった以上、
後戻りは出来ないという可能性が高いといわれています。

分野: 村藤功教授 |スピーカー:

トップページに戻る

  • RADIKO.JP